地面出し競争 豪雪の山形・肘折で逆境を楽しむ人々
第8回地面出し競争。旧肘折小・中学校のグランドに歓声が響き渡る。 動画:阿部香菜子(一部主催者提供)
「出たっ」。真っ白な雪の中から土が見えると歓声が上がった。 今年2月末にあった「地面出し競争 WORLD CUP in 肘折(ひじおり)」。雪から地面を掘り出す速さを競うゲームだ。山形県大蔵村肘折地区で毎年開催される。積雪は3~4mに達し、半日かけて除雪しても翌日にはまた同じくらい積もるほどの豪雪地だ。
一見単純だが「ただ雪を掘るだけでは地面が出ないのが地面出し競争」と企画した早坂隆一さん(38)は語る。力業に見えて実は頭脳戦。穴は広すぎても狭すぎてもいけない。雪を崩さず、いかに効率的に掘り進められるかがポイントだ。体力に自信のある自衛隊員や消防署員も参加するが、日ごろの除雪で鍛えられている地元チームが一枚上手。穴から出てきた人は一様に真っ赤な顔で息を切らす。
今年は264cmの積雪に挑む
通算8回目となった大会の当日は出場者や見学者ら300名超が集まった。会場の旧肘折小・中学校グラウンドは積雪量264センチ。快晴だった。 1チーム6名以内でスコップ4丁、スノーダンプ(大型のシャベル)2台まで使える。直径4メートルのフィールドで雪を掘り、地面を出して土を審査員に届けるまでの時間を競う。 まず予選の「ソリンピック」でソリに乗ってどれだけ遠くまで滑れたかを比べ、上位から地面出し競争の競技フィールドを選べる。会場の中央に立つ審査員に近いフィールドほど有利だ。
地元チームが貫禄の4連覇
ほら貝の合図でスタートすると、参加者たちは雪をかき分けて自分のフィールドへ。多くのチームは6名だが、黙々と掘り下げる2人組がいる。地元の「LOVE SNOW」だ。圧倒的なスピードで地面を出すと、土をつかんで審査員のもとへ走った。タイムは6分14秒で、4連覇を達成。全36チーム中23チームが10分を超える中で地力を見せつけ、金のスコップが贈呈された。 「LOVE SNOW」の甲州享二さん(44)は下水処理場に勤務。肘折にある水道施設の点検で月1回は雪を掘る。「強豪が多い中、勝ててよかったです。来年も空気読まずに勝ちにいこうと思います。ただ、金のスコップは正直飽きました…」と控えめな笑顔で貫禄の口ぶり。優勝はチーム名の由来となった娘の恋雪(こゆき)さん(13)はじめ、家族が喜ぶので嬉しいという。 掘る技術が高まっているのか2位と3位に地元以外が食い込み、上位4チームが6分台の23秒以内にひしめいた。隣接する新庄市から参加した会社員の福田真さん(48)は「仲間とこの雪国に住まう意味を表現したい。だから参戦しています」と語る。千葉県から初参加のチームは息を切らして「こんなに地面が輝かしいものに見えたことはないです」と笑った。