<ライブレポート>Mrs. GREEN APPLEが生み出すダイナミックな感動の“ハーモニー” 定期公演セミファイナル
ひとつの会場、それも万人規模のキャパシティを有するアリーナに拠を構え、10日間にわたって定期公演を開催するという構想、それ自体に関しては、壮大ではあれど今のMrs. GREEN APPLEならばけっして無謀なものではなかっただろう。事実、10月5日から神奈川・Kアリーナ横浜にてスタートし、11月20日に大成功で幕を閉じた定期公演【Mrs. GREEN APPLE on“Harmony”】10公演は早々にチケット完売、のべ20万人を動員したのだから見事としか言いようがない。だが本公演の真の見事さがそうした数字のみで語られるべきではなく、彼らが徹頭徹尾、魂を注いで磨き上げた全19曲と、そしてそれらの有機的な連鎖から生み出されるダイナミックな感動の“ハーモニー”にこそあったことは参加した20万人が身をもって深く理解しているはずだ。 その他の画像 筆者が訪れたのは11月19日、セミファイナルに当たる9公演目のステージだった。前回公演の10月31日から3週間近く空いてはいたものの、場内はワクワクとした熱気に満ちて、賑わいはまるで衰えていない。むしろ少しのブランクに渇望がいっそう掻き立てられてもいるのだろう、開演するやいなや沸き起こった歓声といったら凄まじいなんて言葉では足りないほどだ。弦楽器、管楽器、パーカッションを含む総勢12名の楽器隊が持ち場についたあと、西洋のお城の大広間を思わせるセット中央のドアから若井滉斗(G.)、藤澤涼架(Key.)が登場。さらに興奮が加速するなか、ケルティックなイントロが印象的な「Magic」の演奏が始まった。しかし、まだ大森元貴(Vo.& G.)の姿はない。 そわそわしながら壇上に目を凝らす観客たち。その意表を突くかのように、ステージから5メートルほど高いバルコニーに大森が現れた瞬間の爆発的な歓喜たるや! あっという間に場内の興奮は最初のピークに達し、その後も天井知らずの勢いでのぼりつめていく。ゴンドラに乗り込んでバルコニーから降下、ステージに到着した大森は「元気してますか、Harmony! いいね!」と破顔一笑。そこから藤澤が奏でるフルートの音色を合図にして2曲目の「Hug」へ。オープニングとは打って変わったしっとりとした音像、大森が歌い上げる切々とした心情がオーディエンスを柔らかく包み込んだかと思えば、続く「ライラック」ではアッパーなロックチューンをオーケストラとのスケール溢れるアンサンブルで朗々と鳴らして昂揚を牽引する。 動と静、アップとダウンを交互に織りなしながら、曲ごとに本公演のための緻密なアレンジを加え、さらには一曲一曲の世界観に最大限寄り添った演出を施してポテンシャルを引き上げ、セットリストのどこをどう切り取ろうともすべてが【Mrs. GREEN APPLE on“Harmony”】の顔となりうるライブを作り上げるまでに、彼らと彼らを支えるチームはどれほどのアイデアと労力を注ぎ込んだことだろう。 ため息が出るほど芸術的で、それでいてエゴイスティックではなく、しっかりとエンターテインメントに昇華させるセンスと手腕。観る者をひとときたりとも飽きさせず、かといって供給過剰で疲れさせるでもない、絶妙な匙加減とワンステージとしてのトータリティを保ったまま10公演をやり切れるアーティストなどそういるものじゃない。冒頭“それ自体に関しては”とあえて記したのは、Mrs. GREEN APPLEをしてもこれだけのクオリティで定期公演を成し遂げるのは並大抵の覚悟ではなかったはずで、だからこその本気がこの日を通じてもひしひしと伝わってきたからだ。舞台上の演出もほとんどは映像と照明で担われ、オープニングを除けばアクロバティックな仕掛けは一切ない。大掛かりな装置に頼るのではなく、あくまでも音楽を中心に据えて、人間がその生身で表現するものをダイレクトに手渡し、そこに起こる共鳴や共振を肌で感じてほしいという意志がライブ全編に貫かれているのを強く感じずにはいられなかった。 圧巻だったのは中盤に披露された「ア・プリオリ」だ。2018年にリリースされた7thシングル『青と夏』のカップリング曲ながら、アグレッシブな曲調と皮肉と自虐と諦観をないまぜにしたような、ある意味、ミセスらしからぬ歌詞がかえって人を惹きつけずにおかない人気曲だが、この日の大森のパフォーマンスはまさに楽曲の真髄をありありと具現してオーディエンスを魅了した。オーケストラが醸し出す不穏な調べに翻弄されるかのごとく、フラフラとした足取りで真っ赤に染まったステージを歌い彷徨うその姿。それまで着ていたジャケットを乱暴に脱ぎ捨て、妖艶なハイトーンを駆使しながら〈あれだけ言ったのにバカね〉と聴き手の胸を容赦なくえぐる、鬼気迫ったボーカリゼーションにも瞠目してしまう。自暴自棄をまとった激しさ、狂気に苛まれてもなお希望に縋る悲しさと強さ、一筋縄ではいかない人間の業を突きつけるかのような渾身の「ア・プリオリ」。瞬きするのさえ惜しいとは、こういうことかと改めて知らされる。 ギリギリまで高まった緊迫感を明るく透き通ったサウンドでたちまち解放に導いた「Dear」のあとは、インストセッションが待っていた。「涼ちゃんと若井にここは任せます。みんなが楽しくなるように2人で作り上げてください」と大森から託された若井と藤澤が「やるか!」とばかりに、楽器隊のメンバーを順番にフィーチャーしてはセッションを盛り上げていく様はひたすら楽しいの一言に尽きる。太くゴージャスなグルーブに熱狂へと導かれるオーディエンス、何より彼ら自身がこの瞬間を心底楽しんでいるのがいい。直後、「すごいな! すごく盛り上がったからバラードを」と歌われた「クダリ」の曲中、「紅白、ありがとうございます」と大森が感謝を告げる一幕も。この日ちょうど『NHK紅白歌合戦』の出場者が発表されたばかり、Mrs. GREEN APPLEも昨年に続いてその名を連ねていた。そんな最高のタイミングで発せられた本人の言葉とメンバーの笑顔に客席は大喝采。全員で喜びを分かち合えた格別のひとときとなったのだった。 後半戦には「ケセラセラ」「コロンブス」「Soranji」「familie」と最近のヒットチューンも並んだが、それらを立て続けに演奏するのではなく、「They are」や「Part of me」「norn」といった、いわゆるアルバム曲も大切に紡ぎあげ、ライブならではのグラデーションを描き出していたことも実に印象的だった。楽曲同士の邂逅、曲と曲が作用し合い、相乗して生まれるうねりはライブでなければ体感できないものだろう。また、演奏の際にはスクリーンにすべての楽曲の歌詞が映し出されたことで、それぞれの曲に込められた感情や想いが手を取り合い、ひときわ立体的なメッセージとなって届けられるような実感もあった。例えば大森と若井がアコースティックギター、藤澤がアコーディオンを弾いた「norn」ではスウェーデン語の歌詞と日本語訳が同時に流れ、そこでは北欧の女神に捧げられていたささやかな祈りの言葉と、次の「Soranji」で切実に叫ばれた〈我らは尊い。〉のフレーズが、同じ“生”への願いとなって体のなかに流れ込んでくる感覚は、この【Mrs. GREEN APPLE on“Harmony”】でなければ味わえなかったかもしれない。 全10公演のフィナーレを飾り、この日の締めくくりとなったのも「Feeling」だった。力強いアンサンブルと大森の歌声、そして2万人の大合唱がKアリーナ横浜にこだまする。ここに集った一人ひとりを祝福して舞い降る紙吹雪、なんと幸せな空間だろうか。最後は3人だけがステージに残り、深々と一礼。「また会いましょう!」と大森が言うと若井も藤澤も大きく客席に手を振った。 12月2日には記者発表をリアルタイムで配信し、2025年に迎えるデビュー10周年をマジカルな年とするべくこの1年間を“MGA MAGICAL 10 YEARS”と名づけることを宣言、アニバーサリーイヤーを最高に盛り上げるメガプランを明かしてファンを歓喜させたMrs. GREEN APPLE。ベスト盤リリースにバンド史上最大規模の野外公演開催、海外展開などに加え、2025年秋冬には【Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023“Atlantis”】の続編【“BABEL no TOH”】が実施されることも発表された。想像を遥かに超えたスケール感、彼らの2025年がすでにもう待ちきれない。 Text by 本間夕子 Photos by 田中聖太郎写真事務所 ◎セットリスト 【Mrs. GREEN APPLE on“Harmony”】 <Opening> 1. Magic 2. Hug 3. ライラック 4. 嘘じゃないよ 5. ANTENNA 6. 光のうた 7. SoFt-dRink 8. ア・プリオリ 9. Dear <Interlude> 10. クダリ 11. StaRt 12. ケセラセラ 13. They are 14. コロンブス 15. Part of me 16. norn 17. Soranji 18. familie 19. Feeling
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