「袴田事件」ってどんな事件? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
(1)急速に発達したDNA型鑑定 最大のポイントは白半袖シャツ右肩についたB型血液が袴田死刑囚のものと一致するかどうか。81年から始めた第1次再審請求で「鑑定不能」とされたDNA型鑑定が08年からの2次請求で弁護側推薦の鑑定人が「一致しない」と判定。検察側推薦の鑑定人も「完全一致するDNA型は認められない」としたのです。 弁護側推薦の鑑定人は「5点の衣類」と被害者のDNA型も「一致しない」と判断しました。検察側は「試料の経年劣化」を理由に個人の特定までできないと主張しました。「一致しない」が正しければ判決の根幹「被害者の返り血と袴田死刑囚の血が付いている」が揺らぎます。「5点の衣類」の血液が「被害者の返り血」でもなく「袴田死刑囚の血」でもないとすれば一体何だったのかと。 こうした「新証拠」は科学捜査の進展で可能になったともいえます。DNA型鑑定は現在でも指紋のように「完全に同一人物」までは至りません。しかし今や「一致」が別人である可能性は4兆7000億分の1まで達しています。1次請求時の80~90年代前半は「1000人に1.2人」別人の可能性があったので「鑑定不能」から「一致しない」へ覆るのはおかしくないのです。
(2)「開かれた司法」の流れ 2009年から殺人など重大事件に市民が参加する裁判員制度が始まりました。仕事や家事もある市民を長時間裁判へ釘付けできないためスピードアップしつつも正しい判断ができるよう「公判前整理手続」といって裁判員以外に裁判へ関わるプロの裁判官、検察官、弁護人(弁護士が務める)初公判より前に論点などを絞り込む工夫がなされます。その際に弁護側も検察が持つ証拠を開示できる権利が2005年の刑事訴訟法改正で認められました。袴田事件でも死刑囚の供述や元社員の証言など新しく開示された証拠があります。 再審請求そのものにこの権利が適用されるわけではなりません。また「袴田無罪」の決定的な証言までは至っていないようです。しかし今「袴田事件」が起きれば間違いなく裁判員裁判となるわけで「開かれた司法」への流れに検察も応じざるを得ない時代の雰囲気があり自主的に提出するとの体裁でいくつかの新証言が現れました。