与党、「次」への思惑 弾劾阻止で時間稼ぎ 国政空白のまま対立激化・韓国〔深層探訪〕
韓国の尹錫悦大統領はひとまず弾劾訴追の危機を脱した。ただ、尹政権の先行きが長くないという展望では与党「国民の力」も含め衆目が一致する。早期の次期大統領選を回避したい与党の有力候補、韓東勲代表は当面尹政権を延命させ、自らが主導権を握って態勢の立て直しを目指す。逆に、最大野党「共に民主党」は世論を背に退陣への圧力を強める方針。外交・内政の空白が解消する見通しが立たないまま、「次」をにらんだ与野党の権力闘争は激化する一方だ。 【写真特集】韓国が一時「非常戒厳令」 ◇道連れ回避 「大統領の早急な職務執行停止が必要だ」。韓氏は6日の党会議で、弾劾訴追案への賛成を示唆。同案の可決の公算が大きくなったとみられていた。 一方で、2016年に当時の朴槿恵大統領の弾劾訴追に際して党が分裂し、野党への政権交代につながったことから、尹氏の弾劾訴追案に一致して反対する方針を決めていた。 党の方針と一見矛盾する韓氏の発言の背景には、遠くない将来に行われる次期大統領選への思惑がある。検事出身の韓氏は、古くから尹氏の「右腕」だったが、尹氏と差別化しなければ選挙を戦えない。尹氏を厳しく批判したのは、戒厳令で「国民の信頼が失墜」(与党議員)した尹氏との道連れを避ける狙いもあったとみられる。 ◇最高裁判決まで 「このままいけば共に民主党の李在明代表が次の大統領になる」(政界関係者)との見方が支配的だ。前回22年大統領選で尹氏に僅差で敗れ、その後も熱狂的な支持層を抱える。ただ、李氏は市長時代の都市開発を巡る汚職などで、5件の裁判を抱え、一部の事件では有罪が確定すれば27年に予定される大統領選に出馬できない。 与党が弾劾訴追を阻止したのは、尹氏を支えるためではない。最高裁で李氏の有罪判決が確定する可能性がある来年前半まで、時間を稼ぐためだ。 尹氏は7日の採決を前に談話を発表し、「今後の国政運営は、わが党と政府が共に責任を持って行っていく」と述べ、自らの進退を含めて混乱収拾策を与党に一任すると表明した。前日に尹氏と会談していた韓代表は「私が申し上げてきたことと近い」と評価。外交、経済などについて「韓悳洙首相と党が緊密に協議していく」と述べ、尹氏を排除して自らが政権運営に関与していく姿勢を強調した。 韓代表は7日夜、「大統領から事実上、退陣の約束を取り付けた」と説明。大統領の5年の任期を短縮し、尹氏を職務から排除して首相と与党が協力して国政を進めていく考えを示した。 ◇「弾劾まで無限に提出」 李氏は逆に、判決確定前に尹氏を退陣させ、大統領選を前倒ししたい考えだ。李氏は7日、「早期の退陣とはいつか。大統領は即時退陣しかない」と韓氏の豹変(ひょうへん)を批判。共に民主党は弾劾訴追案が可決されるまで何度でも提出し直す構えだ。李氏は「弾劾まで無限の反復になっても成立させる」と強調した。 1987年の民主化後初の戒厳令下で軍が国会に進入する姿は、国民に軍事政権の記憶を呼び起こし、衝撃を与えた。尹氏は談話で「第2の戒厳のようなことは決してない」と約束したが、不信感は消えそうにない。(ソウル時事)