朝ドラ『虎に翼』戦災孤児を演じる18歳俳優の“危うげな魅力”に注目集まる。過去作からわかる早熟な才能とは
『虎に翼』(NHK総合)では、松山ケンイチ、岩田剛典、仲野太賀など、実に芸達者な男性俳優が作品を彩ってきた。 【画像】これまでの俳優陣とはひと味違う新人俳優の和田庵 第12週からは、豊かな才能を持った俳優が戦災孤児役で登場している。和田庵という新人俳優の名前が、こうして多くの視聴者に知られることは、喜ばしい。 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、加賀谷健が、過去作との共通点から和田庵の演技を解説する。
元締めのような少年がひとり
戦後の日本には12万人もの戦災孤児がいた。上野駅の地下道は、孤児たちで溢れかえった。警察は彼らを「浮浪児」として取り締まり、『虎に翼』では「戦災孤児問題はその後20年近く」とナレーションで説明されている。 孤児たちは、靴磨きで日銭を稼ぐ者が多かったが、中には、窃盗を働かなくては食べ物をろくに得られない者までいた。第12週第56回では、家庭裁判所設立にこぎつけた家庭局の主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)たちが、上野を視察中、小橋浩之(名村辰)がスリにあう。 スリの少年が一目散に走り去る。寅子が追っていった先には、少年たちを束ねる元締めのような少年がひとり。でも見た目は十分大人にも見える。少年の名は、道男(和田庵)。
戦後の実情を描くには……
道男が出入りしていたのは、寅子の学友・山田よね(土居志央梨)が働いていたカフェだった。今は轟太一(戸塚純貴)とともに開いた法律事務所になっている。よねと轟は、孤児たちの面倒を見ていた。 その様子を初めて目の当たりにした寅子は、少年部と家事部の機能をあわせ持つ家庭裁判所の課題をつきつけられる。寅子との再会を喜べないよねは、孤児たちを犯罪者のように取り締まる行政をまったく信用していない。 第12週では、孤児たちの悲惨なあり様が描かれる。でもなにせ朝ドラは1回が15分。1週間で5回と限りがある。戦災孤児に目を向け、戦後の実情を描くには、尺が足りないことは否めない。
戦災孤児を引き取った巨匠監督
そのため、ナレーションによる説明は、他の回より詳細なものとなるが、困窮する戦災孤児の現実を描写するのは、やはり難しい印象がある。そこでひとつの補助線として、1948年に公開された戦災孤児映画の傑作『蜂の巣の子供たち』を紹介しておきたい。 同作冒頭、島村俊作扮する復員兵の元に戦災孤児たちがやって来る。兵士はポケットから取り出したパンを一人ひとりに与える。でもまたすぐに子どもたちは戻ってくる。聞けば、食べかけではないパンだとすべて「兄貴」に渡さなければいけないと言うのだ。 子どもたちが「兄貴」と呼ぶ男は、『虎に翼』の道男のような人物かと思ったら、負傷した元兵士だった。それで復員兵は、りんごをふたつにわけて子どもたちに再び与える。その場でりんごをかじる子どもたちは、実は、子役ではなく、戦災孤児が本人役で出演しているのだから驚く。 監督の清水宏は、日本映画界の巨匠だが、戦後は孤児たちを引き取った人。彼らとともに「蜂の巣映画部」という独立プロダクションを設立し、戦後第1作が、『蜂の巣の子供たち』だった。作品尺は84分。『虎に翼』の1週分とほとんど同じ。比べられるものではないけれど、同じ戦災孤児を扱う映像作品でも現実味がまるで異なる。