朝ドラ『虎に翼』戦災孤児を演じる18歳俳優の“危うげな魅力”に注目集まる。過去作からわかる早熟な才能とは
揺らぎを開示していく和田庵の演技
でもそんな尺と描写の不足を補って余りある存在がいる。文頭で紹介した、孤児たちの元締め的な役回りを担う少年リーダー・道男を演じる和田庵だ。多くの魅力的な男性俳優が出演してきた本作だが、彼らと入れ替わるように登場した和田は、これまでの俳優陣とはひと味違う。 現在18歳。実年齢より少し年少の役柄だが、時代を問わず10代の少年が抱える感情を画面上で見事な揺らぎとして具現化している。道男は、結局猪爪家で引き取られる。一時的な委託保護とは言え、猪爪家の男性にはない不良的な雰囲気の道男は、なかなか受け入れられない。 そこで猪爪はる(石田ゆり子)が「泊めてあげなさい」と言って、率先して愛情を注ぐうちに、道男の心も徐々に開いていく。第58回では、盗みを働こうとした道男にはるがうまく対処し、その晩の夕食では、すっかり祖母と孫のような関係がにじむ。 が、寅子と猪爪直明(三山凌輝)が留守の間、猪爪花江(森田望智)に心惹かれた道男が、危うく一線を越えてしまいそうになる。年頃である。これは大きな懸念でもあったが、ちょっと展開としては急だなとも思った。ただやはり戦災孤児の少年の揺らぎを一つひとつ開示していく和田の演技には、急な場面展開をもカバーする力があるように思う。
過去作で共通して演じてきた役柄
和田庵は、鈴木亮平がゲイ男性に扮した力作『エゴイスト』(2023年)で、中学生時代を演じている。同作冒頭で、同級生たちから差別的な発言を浴びせられる瞬間の表情がクローズアップで生々しく捉えられる。 あるいは、『虎に翼』でナレーションを担当する尾野真千子主演の『茜色に焼かれる』(2021年)でもやはり同級生から酷い罵倒を受ける少年を演じている。和田はその都度、役柄を通じて過酷な現実と丁寧に向き合うように感情を動かしているように見える。それが危うげだけれど、力強くもあり、かつ繊細。 同作の監督である石井裕也は、「和製リバー・フェニックス」と評したが、これは納得出来た。『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)でキアヌ・リーブスと共演して、ゲイ男性の苦悩を画面からこぼれてしまうほどの危うげな魅力で演じたリバー・フェニックスと和田は確かに共通する雰囲気があるからだ。 和田にとっては、『虎に翼』が間違いなくブレイク作になるのだろうけれど、過去作で共通して演じてきた役柄が、和田の中で生き続け、次の役へバトンをつなぐ。その渡し方が揺らぐことはない。早熟の才能を感じずにはいられない。 <文/加賀谷健> 【加賀谷健】 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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