新時代に突入した日本男子100m。18歳サニブラウンの強さと可能性とは
気づけば山縣は25歳に、桐生は21歳(大学4年)になった。桐生はまだ若いとはいえ、今回の日本選手権を沸かせた5人のスプリンターでいうとちょうど真ん中だ。この数年間の成長曲線を考えると、彼らよりも若くて、勢いのあるサニブラウンと多田が引っ張っていく時代になっていくだろう。特に18歳のサニブラウンの可能性は計り知れない。 大会前の注目度は他の4人ほどなかったが、そのポテンシャルは以前から高く評価されてきた。ガーナ人の父親を持つサニブラウンは、一昨年の日本選手権で100mと200mで2位に食い込み、同年夏の世界ユース選手権大会では100m(10秒28)と200m(20秒34)を大会新で優勝。北京世界選手権の200mでも準決勝に進出した。そして、2015年の国際陸上競技連盟年間表彰『IAAF World Athletes of the Year for 2015』で、「RISING STAR AWARD」(新人賞)を受賞。その才能を世界に認められた。 昨年はリオ五輪に照準を定めていたものの、左ハムストリングスを痛めて日本選手権を欠場。その後も個人レースには出場しなかった。城西高を卒業したサニブラウンは、今秋から米国・フロリダ大学に進学予定で、1月から練習拠点をオランダに移した。リオ五輪200m4位のアダム・ジェミリ(英国)、同5位のチュランディ・マルティナ(オランダ)。リオ五輪三段跳の金メダリスト、クリスチャン・テイラー(米国)らと汗を流している。そして、「脚の動きから、フォームまで何から何まで変えてきた」(サニブラウン)。 今季は4月14日に米国で行われたブライアン・クレイ招待に出場。約11カ月ぶりのレースで、100mの自己ベストを0秒04更新する10秒18(+1.8)をマークした。5月21日のゴールデングランプリ川崎は100mで10秒42(-1.2)の4位。ケンブリッジと多田に先着されたが、レース後の表情は明るかった。 「まだスタート練習しかしていないですし、もう少し練習を積めば、一昨年のように後半スーッと上がってこられるかなと思います。個人的には200mの方が走れる感じはしていますが、今季はあまりタイムにこだわ っていません。焦って記録を出すのではなく、しっかり練習を積んで、ケガなくシーズンを終えることが一番の目標です」と話していた。 ゴールデングランプリ川崎から5週間。サニブラウンは日本選手権で覚醒する。100m予選2組で10秒06(+0.4)、同準決勝2組でも10秒06(+0.5)をマーク。「自分でもこんなにタイムをバンバン出せるとは思っていなかったので、正直ビックリしています」とサニブラウンは自身のパフォーマンスに驚いていた。当初は100m予選を走り、あとは200mに集中する予定だったが、100mでも勝負する方針にチェンジ。一気に新王者まで突っ走った。 日本選手権で大会前のベストを0秒13も短縮したサニブラウンは、急成長の要因について、以下の2点を挙げている。 「今年からウエイトトレーニングを始めて、体幹がしっかりしてことで、上半身が横ブレしなくなった。これにより、推進力が上がったのが大きいですね。これまでのレースはしっかりと調整をしていたわけではありません。8月の世界選手権にピークを合わせているので、4~5月のレースではあまり速くなかったですけど、焦らずにここまで来られたことも大きな理由です。ただし、日本選手権で10秒0台を出したところでまったく意味がない。世界選手権ではこれより良い記録で走れるようにしていきたいです」