アングル:トランプ氏、移民規制強化へ就任初日に大統領令
Ted Hesson [ワシントン 12日 ロイター] - トランプ次期米大統領は来年1月20日の就任初日に、移民規制強化のため一連の大統領令を出す公算が大きい。具体的措置の実行役はトランプ氏から国境管理責任者、いわゆる「国境の皇帝」に指名されたトム・ホーマン元移民・税関捜査局(ICE)局長代行ら共和党の対移民強硬派だ。事情に詳しい3人の関係者がロイターに明かした。 関係者の話では、これらの大統領令により、国境警備当局は犯罪歴のない移民を逮捕できる裁量が広がるほか、米・メキシコ国境に配置する州兵の規模を拡大したり、国境沿いの壁建設を再開したりできる。 国境警備の現場を長く経験し、第1次トランプ政権下の2017―18年にICE局長代行を務めたホーマン氏は、米国の移民制度を熟知している。 トランプ氏は、バイデン大統領が導入した人道的な移民の期間限定受け入れプログラムの撤廃も命じる見込み。このプログラムにより近年、米国に何十万人もの移民が合法的に流入した。さらに同プログラムの有効期限を過ぎた移民の自主的な出国を促すことになるという。 第1次トランプ政権で移民対応に当たったマーク・モーガン氏は「これらの措置は必ず政策のテーブルに載せられる」と述べた。モーガン氏は、自分はトランプ政権移行チームの代弁者ではないとしている。 一連の大統領令は、トランプ氏が公約に掲げる不法移民の大量強制送還への序奏となるだろう。 米国土安全保障省が見積もった不法移民の数は22年時点で1100万人だが、今はもっと増えているかもしれない。移民を積極的に受け入れてきたニューヨークやシカゴ、デンバーといった一部の都市では移民用の住居や支援態勢の確保に苦戦を強いられている。 トランプ氏は選挙戦で、バイデン政権が不法移民の大幅な増加を許したと訴えてきた。実際、バイデン政権の全期間で見ると、逮捕された移民は過去最大を記録している。ただ今年になってバイデン氏が国境警備を厳格化する措置を講じ、メキシコも対策に乗り出したため、不法移民の流入は劇的に減少した。 それでもトランプ氏は不法移民をさらに減らそうとしており、逮捕や拘束、大量送還のために政府組織全体を活用する構えだ。 人事面ではホーマン氏を国境管理責任者に起用すると発表したほか、第1次政権で大統領上級顧問を務め、やはり対移民強硬派のスティーブン・ミラー氏が大統領次席補佐官に充てられる、と11日にバンス次期副大統領が認めた模様だ。 トランプ氏は、国土安全保障長官には中西部サウスダコタ州のクリスティ・ノーム知事を抜擢する方針。サウスダコタはメキシコよりカナダとの国境に近いが、対移民強硬派のノーム氏は近年わざわざメキシコ国境を何度か訪れ、今年1月には同国境を「戦争地帯」とまで表現している。 <執行権限拡大や壁建設> トランプ氏は大統領就任初日の命令で、不法移民の逮捕・拘束に関する執行権限を拡大する見込み。 バイデン政権が打ち出した指針では、重大犯罪記録がある人物を優先的に強制送還し、犯罪歴がない人への執行は制限されてきたが、トランプ氏はこの基準を撤廃すると関係者は見ている。重罪で起訴されたり、米国滞在資格を喪失したりした人々の強制送還を引き続き優先しつつ、当局者がそれ以外の不法移民を送還するのを禁止しない内容になるという。 ICEの推計によると、米国内には強制退去を最終的に命じられた移民が140万人存在し、次期政権はこの対応を優先課題とするだろう。 ホーマン氏は11日のFOXニュースで「連邦裁判所の判事が『出て行かなければならない』と宣告したのに、彼らは出国しなかった」と語った。 2人の関係者は、パレスチナ自治区ガザの戦闘を巡ってイスラム組織ハマスを支持し、学生ビザの要件に違反した外国人留学生なども優先的な送還対象になり得ると述べた。 ICEは強制送還に軍用機を利用し、他の政府機関にも支援を要請する可能性がある、と関係者の1人は話す。 トランプ氏は国境警備強化についての命令も出し、州兵を国境に派遣するとともに、国境の壁建設資金を確保するため不法移民問題を国家の緊急事態と宣言する意向と見られている。 特に民主党のケイティ・ホブス知事が反対しているアリゾナ州での壁建設が優先されてもおかしくない。 バイデン政権が導入した期間限定で移民の合法的な滞在と就労を認めるプログラムも、トランプ氏は打ち切る。同プログラムの対象者には、メキシコ国内にいる移民希望者のうち米国内にスポンサーがいるなどの条件を満たした人々が含まれていた。 トランプ氏は、このプログラムの有効期限が切れても自主的に国外に退去する移民には罰則を設けない方針とされる。 同氏はメキシコと協議し、メキシコ人以外の移民希望者は米当局の審査が終わるまでメキシコ国内にとどめる仕組みの復活にも動きそうだ。