黒木華が熱量をもって打ち込める唯一のこと
気持ちを整理できるだけの時間
『アイミタガイ』のなかで、梓は世を去った親友の叶海に宛て、メッセージを送り続けている。友人の死を受け入れられないからなのか、もしくは帰ってきてほしいという叶わぬ願いからなのかーー。自分だったらどうするか、考えさせられるシーンだ。 「やっぱり『このメッセージが届いてほしい』という想いが、梓の中にずっとあるんじゃないでしょうか。その気持ちはすごく理解できます。 もう亡くなったとわかっているけれど、それを認めることで崩れてしまう何かが梓の中にあるのだと思うんですね。ましてや人の死は簡単に乗り越えられるものではないだけに、なおさら。 きっとその気持ちを整理できるだけの時間がまだたっていないのでしょうし、叶海のお母さんも同様の理由でスマホを解約できずにいるのだと思います。もしも私が梓と同じ立場になったら、やはり同じように気持ちが整理できるまで待つでしょうね」
傷ついた時は泣いてスッキリします
本作には、いじめ、児童養護施設、戦争など、様々な「人の心に残された傷」が描かれている。人が心に一切の傷を受けずに生きることは難しいが、黒木さんはどのように傷と向き合っているのだろう。 「悩み事もそうですが、結局ほかの人は話を聞いてあげることしかできなくて、決めるのはその人自身。当人に整理する時間が必要なのであれば、つかず離れずの距離感で、でも『一人じゃないよ』という思いで見守っていてあげたいです。 私自身が傷ついた時は友達に甘えてしまいますね。『ちょっと聞いてー! 今日、こういうことで傷ついたんだけど!』と言って(笑)。傷ついたこともムカついたことも、友達に聞いてもらうだけで気が済んでしまうことが多いです。 友達にも話せないほど傷ついた時は……うーん、どうでしょう。昔はよく泣いていました。泣くとスッキリするから。最近は泣くほどしんどいことはないので、その機会もないのですが。おかげさまで毎日楽しく生きています(笑)」
梓の気持ちになって主題歌を歌唱
今回黒木さんは、エンドロールで流れる主題歌「夜明けのマイウェイ」を歌唱している。往年のヒット曲である同曲は、黒木さんの優しい歌声と相まって、悲しみを味わった梓から観る人へのエールのようにも聴こえる。 「主題歌を歌うことは、映画を撮り終わってしばらくしてから聞きました。言われた時は『ええっ、私が歌うの!? どうしよう!』と慌てました。私は歌手ではないですし、プロのミュージシャンでもないですから。 歌唱指導をしてくださった先生はもともと指揮者として活動されている方なんですが、その方が最初は『ちゃんと音を取って、音に正しく』とおっしゃっていたんですね。 でも途中で、『黒木さんは役者さんだから、歌詞の意味を踏まえたうえで、ご自身が演じた梓の気持ちになって歌うのがいいですよ』と言われて。それ以降はちょっと気持ちがラクになり、なんとか歌いきることができました。とても素敵な曲ですので、耳を傾けていただけたら嬉しいです」 黒木華 1990年、大阪府出身。2010年、NODA・MAP 番外公演「表に出ろいっ! 」でデビュー。『小さいおうち』(14)で第64回ベルリン国際映画祭銀熊賞を日本人最年少で受賞。そのほか映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)『日日是好日』(18)『浅田家!』(20)『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21)『せかいのおきく』(23)『青春18×2 君へと続く道』(24)、ドラマ「凪のお暇」(TBS/19)「イチケイのカラス」(CX/21)「僕の姉ちゃん」(TX/22)大河ドラマ「光る君へ」(NHK/24)など幅広く数多くの作品に出演。映画『八犬伝』(24)の公開が控える。
上田 恵子(ライター)