医者から「卵子がほとんどない」「妊娠は難しい」と言われ涙が止まらず…27歳で“卵巣がん”を経験した女性(32)が“奇跡的に出産”するまで
SNSであえて病気について語らないワケ
――今メディアでは病気の体験を伝えていらっしゃいます。どんな反応がありますか。 長藤 同じ年代でがんになった方からSNSを通じてDMをいただきます。「卵巣を片方残すかどうかで悩んでいます」とか、「抗がん剤でこういう気持ち悪さがあるけど、どう対処しましたか」といった具体的な相談も多いですが、どちらかというと、気持ちの部分の方が多いかもしれないですね。 ――「気持ちの部分」とはどういったことでしょうか。 長藤 「この時はどう考えていましたか」とか、「どうやって前向きに捉えて乗り越えましたか」といった内容ですね。 ――SNSの発信で気をつけていることはありますか。 長藤 自分にできることはなんでも力になりたいと思い、いただくメッセージにはなるべくお返事をしています。しかしDMを通じた「TO相談者の方」ではなく、大衆に向けてはあえて病気のことには触れず、日々の生活のことだけ発信しています。 ――あえて病気を語らないのはなぜでしょう。 長藤 ひとりひとり状況が違う顔の見えない人たちに向けて、たまたま回復して元気になって子どももできて、支えてくれる夫もいる自分が、「病気はつらかったです」「苦しかったです」という発信はできないんです。それは、どれほど病気が残酷で辛いものかを知っているからこそかもしれません。 自分がそれをやると、どうしてもその先には私の“今の姿”があるので。 ――サバイバー目線になることに躊躇がある? 長藤 病気を忘れたいとか隠しているわけではなく、私自身が直接この経験を発信することは難しいと考えています。治療の経過もその先の人生も、本当に人それぞれですから。 ただ、私の存在を希望に思ってくださる方がいるとしたら、それはとても嬉しいことなので、今回のようなメディアのインタビューは進んでお受けをしています。 ――お子さんが大きくなったら、闘病のことは伝えますか。 長藤 私が今SNSに残しているものは、娘への遺書に近いと思っています。それもまた、SNSで病気を語らない理由のひとつかもしれません。自分が辛い経験をしたことではなく、こうして奇跡が起こることもあるから、どんなことがあっても諦めなくて大丈夫だよ、という意味合いでいつか伝えたいなとは思っています。 撮影=細田忠/文藝春秋
小泉 なつみ