《介護がうまくいくコツ》認知症患者に対して「今日は何月何日?」「孫の名前は?」と聞いてはいけない理由
理学療法士で『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(アスコム)の著者の川畑智さんは、認知症の人のサポートや認知症予防のための活動を行っている。多くの認知症患者やその家族と関わってきた経験から、お互いが笑顔になる“晴れ”の日を増やす介護のポイントを伝えている。その中からやりがちなNG対応について教えてもらった。 【写真】認知症の人をイメージした頭を抱える老女。ほか、認知症患者へのNG行動を写真とともに紹介
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記憶の確認クイズを出さない
認知症になると、記憶障害とともに「時間」「場所」「人」に関わる認知機能に支障が出る「見当識障害」が始まる。 「アルツハイマー型認知症では、比較的初期の段階でわからなくなるのが『いつ』と『どこ』。そして、中期になると『誰』が苦手になります」(川畑さん・以下同) ◆答えられないとお互いにマイナスな気持ちに 施設に面会に来る家族から認知症患者へ、「今日は何月何日か言える?」「今どこにいるのか、わかる?」「孫も連れてきたよ。名前なんだったっけ?」などと、記憶の確認クイズを畳みかけてしまうケースは少なくないと川畑さんは言う。しかし、これはNG対応の1つ。 「認知症がどれだけ進行しているか確かめたくて、つい聞いてしまう気持ちはよくわかりますが、認知症になっても、人格やプライドは当然残っています。試されるようなクイズは、苦痛でしかありません。ましてや、答えられなかったら自信を失いますし、ご家族も『前より悪くなった』とショックを受けます」 お互いが、マイナスな気持ちになってしまう質問をあえてする必要はない、というのが川畑さんの考えだ。 ◆誰かわかるか聞かずに、自分から名乗る また、認知症になると、人の顔がわからなくなる「相貌失認」という症状も起こる。 「家族の顔は忘れにくいのですが、症状が進行したり、施設などに入居して毎日顔を合わせなくなったりすると、記憶から抜けてしまったり、別の人と間違ってしまうことも増えていきます」 家族にとって、自分の顔を忘れられてしまうのはとてもショックな出来事だ。しかし、つい「わかるよね?」と必死になってしまうこともあるだろう。そうならないために、川畑さんはクイズを出すことではなく、自分から名乗って答えを明かすことが大切だと語る。 「『○○よ』と名乗ることで、脳の記憶の部分と顔が一致し、『おお、○○か』とわかってもらえます」 場所のことが苦手な人には「ここは○○だよ」と教えてあげるなど、先に情報を与えることが最善だ。 「認知症の方に対しては、不要なクイズを出すよりも、むしろ先に答えを教えてあげるような形でコミュニケーションを進めてください」