スイスの絶景とヒロインの孤独。観る者の心を震わせる大人の映画『山逢いのホテルで』
発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選! 今月見るべき映画3選(画像)
スイスの山間を上るケーブルカーに乗って、巨大なダムのほとりに建つホテルに向かう白いコート姿のクローディーヌ。馴染みのフロント係にチップを渡し、彼が指し示した単身で短期滞在の外国人男性客に近づき、話が弾めば男の部屋で体を重ねる。そして事が済めば山を降り、口紅を落として日常の暮らしに戻ってゆく。 ダイアナ妃のファンで、障害を抱えた一人息子を慈しみながら、クローディーヌはスモック姿で仕立て屋を営んでいる。献身的な母としての親子二人暮らしと、母から女に戻る山でのひととき。そんな二重生活がこの先もずっと続くと思っていたクローディーヌに予期せぬ事が起きる。
スイスの新鋭監督マキシム・ラッパズが、スイスの絶景にヒロインの孤独を漂わせながら、彼女の慟哭と決断によって観る者の心を震わせる。監督のラブコールに応えて母と女、そして恋人と表情を変える主人公を優美に演じたのは、『そして僕は恋をする』で注目を浴び、『バルバラ セーヌの黒いバラ』でセザール主演女優賞に輝いた名女優ジャンヌ・バリバール。 クローディーヌのラストの身を切るような決断を、バリバールは「『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』に対するアンサーなの。ただし、映画が回答にたどり着くまで50年もの歳月がかかったわ」と語った。 シャンタル・アケルマンが1975年に監督したフェミニスト映画の白眉『ジャンヌ~』を知れば、50年の歳月が生み出した2本の映画の共鳴を聴くことができる一方で、『山逢いのホテルで』は『ジャンヌ~』抜きでも大人の恋と胸に迫る旅立ちの物語を楽しめる仕上がりになっている。 『山逢いのホテルで』 11/29(金)よりシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開 BY REIKO KUBO