石神井公園駅前の再開発、地裁が認めた「執行停止」を一転、高裁が却下…なぜ? 住民に“回復不可能な損害”を与えかねない「深刻な問題」
「取消訴訟の手続きの進行中」に工事をストップさせられるか?
「処分の取消訴訟」が提起されてから、判決が出るまでには時間がかかる。そこで大きな問題となるのが、建設工事のプロセスを止めることができないということである。 再開発組合の設立認可処分が下されると、その効力として、組合は地権者らに土地建物の明け渡し請求を行うことができる。 一方、原告地権者は、処分の取消訴訟が適法に係属しても、原則として、明け渡し請求やその後の工事の続行を止めることができない(行政事件訴訟法25条1項)。これを「執行不停止原則」という。 しかし、これでは、再開発事業を行う側の「やったもの勝ち」になってしまう。そこで、原告のために、執行不停止原則の例外として、一定の要件をみたせば判決が出るまで処分の続行をストップさせられる「処分の執行停止」という制度がおかれている(法25条2項~4項)。 そして、本件において、原告の地権者はこの執行停止の申し立てを行った。
東京地裁は執行停止を認めたが…
冒頭のように、東京地裁は3月13日、原告に「重大な損害が発生するおそれ」があると認め、執行停止の決定を下した。 その理由として挙げられたのは、原告が土地建物を明け渡すことにより、慣れ親しんだ生活環境や地域社会とのつながりを失うという損害が発生し、その損害は「一度失われれば回復が容易ではない」というものであった。 そして、執行停止の期限は、本案の「再開発組合設立認可の取消訴訟」の判決が言い渡される予定だった5月16日から3か月と設定された。 この決定に対し、再開発組合が被告(東京都)側に訴訟参加し、同時に、東京高裁に異議を申し立てる「即時抗告」を行った。その結果、東京高裁は5月9日、一転して、執行停止を取り消した。 東京高裁は地権者が「財産上の不利益とは別に相応の精神的、肉体的負担を被る」と認めつつも、「重大な損害」に該当するとは認めがたいとした。その理由は以下の通りである。 ①地権者は再開発ビルの所有権を取得するので居住・営業の利益を失わない ②仮移転先が確保され、仮住居の確保も困難ではない