ハースF1はなぜ躍進したのか。アップデート成功の裏にあるチームの空気感を小松代表が説明「全員に透明性がある。批判する文化はない」
今季のF1はシーズン中のアップデートの成否によって勢力図に変化が生じているが、小規模チームながら着実に“アップグレード”を成功させ、予想を上回る結果を残しているのがハースだ。 【動画】ブラピ主演映画『F1』公式ティザー映像 ハースはここ最近、ニコ・ヒュルケンベルグが2戦連続で6位フィニッシュを記録するなど、白熱する中団争いの中で一歩抜け出した感がある。コンストラクターズランキング6番手のRBまであと4ポイント差の7番手につけている。 こういったハースの驚くべき進歩について理解する上で重要なのは、チームが単に良いマシンを作り上げてそれが結果として出ている、という話ではないということだ。確かに今季のVF-24は昨年のマシンよりも進歩しているが、何よりシーズン中の開発プログラムを順調に進められていることの方が大きい。 結局のところ、今年はアップデートの結果が“アップグレード”となるか、“ダウングレード”となるかで決まるシーズンになっていると言える。 ハースのような一貫した進歩は、他のチームがなかなか実現できていないものでもある。例えばシーズン開幕直後はレッドブルに次ぐパフォーマンスを見せていたフェラーリは、スペインで投入したフロアが高速域でのバウンシングの問題を再燃させて調子を落としているし、アストンマーティンもエミリア・ロマーニャGPで新パッケージを投入したことでドライビングが難しいトリッキーなマシンになっており、安定してポイントを稼ぐことができなくなっている。 フェラーリやアストンにとって、この難局を打開するのは難しくなっている。こういったアップデートが予期せぬ結果も引き起こしている一方で、ダウンフォースの面ではプラスの効果をもたらしているのだ。 アップデートが必ずしもプラスにならないというこの現象は、現行規則のF1のトレンドのようにも見える。これは当然ハースにとっても無関係なことではなく、新しいパーツのどれが機能し、どれが機能しないかを見つけ出す日々となっている。 ただ、大規模予算を持つライバルたちが苦戦している中で、ハースがなぜこれほどうまく物事を進めることができているのかは興味深いテーマであり、チーム自身も明確な答えを持ち合わせていない。 ハースの小松礼雄チーム代表は、チームが何か特別なことに取り組んでいるわけではないとしながらも、新たな価値観が根付きつつあると説明した。 最近の成功の秘訣について聞かれた小松代表は「正直分かりません。ただひとつ言えるのは、我々が協力し合っているということです」としつつ、さらにこう続けた。 「マイアミの後の一連のアップデートのように新しいパーツを投入した時も、実際には風洞での数値やCFD(コンピュータ解析)の数値などが全て思っていたような値になっていたわけではありません」 「しかしチームとして(期待通りではなかった新しいパーツについて)ミーティングをした時に励みになったのは、誰もそれについて否定をしたり言い合ったりしなかったことです。そうではなく、『よし、それは現状として受け入れて、その理由を探らないと』という話をしていました」 「一旦それを受け入れ、誰もがそれを理解しようと努力すれば、その学びを次のアップグレードに活かすことができます。だからもし秘訣があるとすれば、それもひとつかもしれませんね。全員が透明性を持って協力していて、批判する文化はありません」 「今回の件(イギリスGPのアップグレード)に関しても、私は木曜日に『まだ何も分からないので、実際に走るまでは何も言いたくない』と言いました。我々が何をしくじったかなんて、事前には分かりませんからね」 今年のハースがアップグレードを着実に進めていることは、これまでのハースの状況とは対照的だ。 昨年はアメリカGPで持ち込まれた大規模な開発パッケージが機能せず、アブダビでの最終戦では旧スペックに戻したヒュルケンベルグが楽々と予選トップ10に食い込んだことで、その失敗が露呈した。アップデートを放棄して旧スペックに戻るという流れは2019年にも見られた。 だからこそ、こういった流れを断ち切ることは小松代表にとって非常に重要なことであり、これが将来的にはさらに大きな利益をもたらす可能性があると彼は考えている。 「報道では我々の空力担当はアップデートができないなどと言われてきましたが、今は(それができると)証明しましたし、我々のパフォーマンスが上がったことは誰も否定できないと思います。それは彼らに大きな自信を与えるはずです」
Jonathan Noble