映画「怪物」に登場した旧国鉄鉄橋は撤去へ 国内外からファンが訪れているが…「負担大きく観光活用は難しい」
長野県富士見町の名取重治町長は4日の町議会6月定例会の一般質問で、町内の立場(たつば)川に架かる旧国鉄時代の鉄橋「旧立場川橋梁(きょうりょう)」について、災害や事故のリスクや文化財として保存する費用の面から「保存という選択ではなく、最終的には撤去を検討することが現実的」と述べた。今後、専門家や大手ゼネコンなどと連携しつつ、撤去に向けた調査を進めるとしている。 【写真】映画「怪物」の旧立場川橋梁での撮影風景
■1980年以降は使われず 文化財指定も断念
橋梁は1903(明治36)年に立場川を渡る鉄橋として完成。80(昭和55)年以降は使われておらず、現在は土砂崩落などの恐れから近づけない。2023年6月に公開された是枝裕和監督の映画「怪物」で撮影が行われた。
10年には町文化財専門審議会が橋梁の文化財指定を巡り審議。「鉄道史の上では貴重だが、管理費用が莫大(ばくだい)になることから、住民への負担が大きい」として指定を断念した経緯がある。
■「映画ファンや鉄道ファンの大事な場所」
橋梁下を町道が通っており、災害時には崩落などの危険性もある。名取町長は撤去方針について、取材に「誰かが決断しなければ次世代に負担が先送りされる」と強調。価値は認めつつ「町民負担を考えれば観光資源として活用するのは難しい」との考えを示した。撤去時期は未定。
町議会一般質問で橋梁を取り上げた牛山吉彦町議は「昨今は映画ファンや鉄道ファンにとっても大事な場所になっている。撤去やむなしとしても、ファンへの配慮を行ってもらいたい」と注文した。
■「活用議論を」「やむを得ない」意見さまざま
名取重治町長が4日の町議会6月定例会で撤去方針を示している旧立場川橋梁。是枝裕和監督の映画「怪物」の重要なシーンの撮影に使われ、町の新たな観光名所となっているだけに、関係者からは落胆する声が聞かれた。
「多くの人が訪れる貴重な観光資源。活用の可能性を含め、建設的な議論ができないのか」。橋梁を巡るツアーを実施している町観光協会職員の鈴木敏夫さん(72)はそう訴える。5月のツアーは定員を上回る盛況で「若い人の参加が多く、富士見を知るきっかけにもなっていた」。