肉にとろける味わい求める軟弱者には到達できない…広島限定で食べられる牛の「コウネ」弾力や味の伸びを前提とした旨味
【肉道場入門!】絶品必食編 肉好きのみなさまは「コウネ」をご存じだろうか。聞くとたいてい「馬の?」という問いかけが返っくる。 今回紹介する牛の「コウネ」は広島県内では焼肉店や居酒屋などでもおなじみの広く知られるメニューだが、県外の飲食店では見かけない。 関西の名精肉店の店主に尋ねてみても「コウネ…って馬肉とちゃうん?」という答えが返ってくる、広島限定の肉だ。 濃醇な赤い色の肉は肉の味わいが凝縮されていて、噛んだあごの力を跳ね返すような心地いい弾力に満ちている。その歯応えに負けることなく、あごに力を込め、肉表面を突破すると内側からは噛み込むほどに力強く伸びやかな肉の味わいが染み出してくる。噛むほどに味わいは深くなる。まさに滋味と呼ぶのにふさわしい味だ。 部位としては他府県では「ブリスケ」「前バラ」「肩バラ」と言われるあたり。 よく動く部位周辺の肉の味は濃い。これは肉好きなら誰もが知っている、食肉に通底する不変の法則だ。 両足の間の前方に位置する、運動量が多い部位なので肉質としては、ややもすると硬いと感じられる人もいるかもしれない。だからこそ、広島では薄めにスライスして焼きつける手法が鉄板焼き店や焼肉店で定着してきた。 広島では食肉処理の過程で、コウネの部分だけを分割して切り落とすという。分割の際、他府県のようにそのほかの部位とまとめなかったことから、部位として流通するようになり、食文化として定着していった。 他府県でブリスケや肩バラと言えば、牛丼などの煮込み料理に使われがちだが、焼けば濃厚な旨味をすべて肉の中にとどめられる。しかもこの部位はコラーゲンなどのコク味も深い。 とろけるような味わいばかりを求める軟弱者に決して到達することのできない弾力や味の伸びを前提とした旨味がある。 広島市内のお好み・鉄板焼き店「貴家。」でも「お肉ノ鉄板焼き」メニューに「コウネ①」とあり、①の注釈には「広島名物(牛の肩バラ肉)」と解説が。絶品の(広島風)お好み焼きの前、こんなアテからスタートできる幸せも噛みしめたい。 ■松浦達也(まつうら・たつや) 編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しい。新著「教養としての『焼肉』大全」(扶桑社刊)発売中。「東京最高のレストラン」(ぴあ刊)審査員。