早稲田大学駅伝主将・伊藤大志が学生ラストシーズンで見せた成長の跡と駅伝シーズンへの思い
【駅伝主将としての責務を果たして】 「今年は伊藤がすごくいい」と指導する花田駅伝監督も伊藤を高く評価している。 特筆すべきは、そのキャプテンシーだ。 集団走やポイント練習(強度の高い重要な練習)では積極的に先頭を引っ張った。また、自身が出場していないレースでも、声を張り上げてチームメイトに声援を送った。 「キャプテンだからこそ、やらなきゃいけない部分、自分の姿勢を見せなきゃいけない部分は絶対にある」と言い、強烈なキャプテンシーでチームを鼓舞し続けた。 そして、9月の日本インカレに出場したことも、駅伝主将としての責務を果たすためだった。 日本インカレは学生日本一を決める大会だが、こと長距離種目に関しては、近年、強豪校の主力選手は回避する傾向にある。駅伝シーズン開幕直前で、どの大学も夏合宿明けということもあり、万全なコンディションで大会に臨めないという事情があるからだ。伊藤もしかり。合宿が続いている最中だった。 それでも、この大会に出場する決断をした。 「競走部として、トラックでも勝たないといけないと思っていました。花田さんと(日本インカレに出場するか)相談した時から、僕は出るつもりでした。日本インカレに調子を合わせるわけではなく、夏合宿では練習を積んできましたが、しっかりと戦わなきゃいけないと思っていました」 レースは、3000mすぎから創価大学のスティーブン・ムチーニ(2年)との一騎打ちになった。3500mすぎからじりじりとスティーブンに遅れをとったものの、草刈恭弓(東海大学3年)らの猛追から逃げきって、2位でフィニッシュし、日本人トップの座は守った。 「表彰台と日本選手トップは確実に取っていかなきゃいけないと思っていたので、それができてひと安心。第一目標はクリアできました」 100%と言えるコンディションではなかったものの、"最低限"の結果は示した。だが、ムチーニについていけなかったことについては「残り1500mぐらいで離れたのはもったいなかった。もうちょっとつかなきゃいけないレースだったと思います」と反省を口にしていた。これもまた、駅伝シーズンに持ち越す課題だ。 昨年度は、出雲駅伝1区4位、全日本大学駅伝7区6位と主要区間で堅実な走りを見せながらも、箱根駅伝は直前にインフルエンザを発症し走ることができなかった。チームは総合7位に入り、2年連続のシード権を獲得したが、伊藤自身は悔しさを味わった。学生ラストシーズンの駅伝は、その雪辱を果たす舞台になる。 「僕個人としても、4年間のなかで一番いい夏を過ごせた。満足した練習が積めています。チーム全体を見ても、僕が早稲田に入ってから一番よい仕上がりのチームになっていると断言できる。駅伝シーズンはいつも以上に戦っていけるという期待というか、自信があります」 伊藤自身もチームも、充実した夏を経て、いよいよ駅伝シーズンを迎える。 今季の早大は大学三大駅伝で3位以内を目標に掲げている。早大は、学生駅伝三冠を成し遂げた2010年度シーズンから駅伝での優勝から遠ざかっているが、再び頂点に立つための足がかかりを築くつもりだ。
和田悟志●取材・文・写真 photo by Wada Satoshi