「娘に愛国教育は受けさせたくない」アメリカへ不法越境した中国人が語った本音 闇業者に頼り、長旅の果てに…国境警備当局による拘束は10倍以上に激増
▽長女の夢 汚染された中国の水や空気が長女の身体に与える影響も心配だったという。決断に拍車をかけたのが、中国の新型コロナウイルス対策「ゼロコロナ政策」だった。感染拡大を封じ込めるため、ロックダウン(都市封鎖)や集中隔離などの強制措置が実施され、経済は停滞。自営業者だった一家は「多大な影響」を受けた。ゼロコロナ政策は2022年末ごろ、事実上崩壊。張一家はその後、北京に移ったが、事態は好転しなかったという。 祖国は既に捨てた。親族や友人にはもう会えないが、張は「きっと決断を理解してくれる」と語った。一家はアメリカのどこに居を構えるか決めていない。だが長女の夢は明確だった。「ハーバード大に入学して、研究者になりたい」 × × × 〈取材を終えて〉 私は中国語を話せない。英語ができない張一家と私の橋渡し役を担ってくれたのは、台湾への留学経験がある支局助手のジャマール・ボンズ(28)だ。一家は、中国語を繰り出す長身の黒人男性に初めは驚いていたが、すぐに親しみに変わったようだった。取材中、張の方からボンズに話しかけたことがあった。笑顔だったので「中国語が上手だね」と言っているのだろうと思い確かめると、やはりそうだった。 こうしたやりとりを見ていたからか、私も取材後、少女に自分の言葉で何かを伝えたくなった。知っている数少ない中国語のフレーズから選んだのは、「加油(ジャヨウ)」。頑張って、という意味だ。
取材をした日から約3カ月がたった。あの時、照れくさそうな笑顔でグータッチをしてくれた少女は今、どこでどんな生活を送っているだろうか。