「娘に愛国教育は受けさせたくない」アメリカへ不法越境した中国人が語った本音 闇業者に頼り、長旅の果てに…国境警備当局による拘束は10倍以上に激増
その後隊員らはいなくなったが、移民は依然、整列している。私はシュルツの言葉を思い出し、彼らが私のせいで立ったままでいるような気がして、申し訳なくなった。そこで1人に「並ばなくていいらしい」と告げると、その人物を含む一団がテントの方へ駆け寄っていった。その様子を見て、他の人たちも周囲に散らばった。 ▽中国人の拘束は年2万4千人 しばらくして戻ってきた国境警備隊は、ワゴン車などに移民を乗せて別の場所に運ぶピストン輸送を始めた。移民は到着した施設で亡命申請手続きなどを経て解放され、それぞれの目的地に向かうとみられる。この日の到着者はいずれも翌日にはいなくなっていたが、施設の空き状況次第では数日間残ることもあるという。 アジア系の割合は、思っていた以上に多かった。シュルツによると、昨年9月ごろからこの地域で不法移民が増え始め、12月下旬には1日に約450人がたどり着いた。平均で約3割が中国人だという。
10月を期首とするアメリカの会計年度で、2023年度にメキシコ国境でアメリカ当局に拘束された中国人は2万4314人。データがある2007年度以降で最多だった2016年度を、10倍以上更新した。その後も増え続け、昨年12月だけで6千人近くに上った。中国人移民希望者を顧客とする中国系アメリカ人弁護士、黄笑生によると、多くは自由や職を求めて米国を目指す。 ▽11カ国の旅路の果てに 私が出会った張一家は祖国を離れた後、タイやトルコなどを経由した。入国にビザが不要な南米エクアドルに到着し、その後は主に陸路で北上。計11カ国、50日超の長旅だった。中国系動画アプリTikTok(ティックトック)を見て、初めて具体的な渡航方法を知った。3人で30万元(約620万円)かかったという。 道中では、コロンビアとパナマにまたがり、アメリカを目指す多くの人が命を落としているジャングル地帯「ダリエン地峡」も通った。危険を覚悟でアメリカを目指したのは「経済的な苦境に加え、長女の教育と健康のため」。中国の習近平指導部は思想統制の一環で愛国教育を実施しているが、張は「娘は学校で共産党や政府への忠誠心を育てるスローガンを復唱させられるが、そんなものは学んでほしくない」と強調した。