シルエットの探求を続ける「ロエベ」 削ぎ落とすことで見い出した軽やかさ
1シーズンで使い捨てずに極めるアイデア
以前から1シーズンでアイデアを使い捨てることに疑問を呈してきたアンダーソンは、今季もこれまでに生み出してきたアイデアを応用したり、ブラッシュアップしたりしている。例えば、フェザーがびっしりと飾られたTシャツ風のトップスは、2023-24年秋冬に披露したアイデアを発展させたよう。今季は、「美術館やコンサートに行くという体験した時に、思い出の品を持ち帰りたくなる」というアイデアを元に、前面にバッハやモーツァルト(Mozart)といった音楽家の肖像画や、フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)の「ひまわり」やエドゥアール・マネ(Edouard Manet)の「笛を吹く少年」などの名画をハンドペイントで描いた。それはコンサートTシャツやミュージアムグッズかのようなデザインであり、アンダーソンのユーモアを感じる。
また、「ラディカルな節度」をテーマにした6月のメンズ・コレクションに通じる技法やデザインも多く見られた。例えば、メンズでトップスに用いた薄く仕上げたマザー・オブ・パールを全面に貼り付ける技法は、ミニ丈のコートドレスに採用。ベルトで上下のアイテムをつなぐアイデアは、ウィメンズではクロコダイルのトレンチコートに取り入れた。また、太くカーブした袖が特徴のテーラードジャケットや、ケープのように広がるシルエットのバイカージャケット、シームに沿って入れたワイヤーで裾が捲れ上がったコート、本来背面にあるロコバッチを前に持ってくるために捻ったようなデザインで美しいドレープを生んだボリュームのあるパンツ、トーが極端に長いオックスフォードシューズなどはメンズと共通するデザインだ。
ショー後、メンズとウィメンズの関連性について聞かれたアンダーソンが語ったのは、「私たちがメンズショーでいかに、どこまで到達できたかということを気に入っているし、私たちはたくさんのアイデアを生み、発展させてきた。なのに、なぜそれを急に捨て去らなければならないのだろう。私はそこに章を追加するという考えで、5~6つの既存のアイデアを真に極めながら、3~4つの新たな章を加えていく。その完成度を高めていくことで、店頭に並ぶ頃までに、アイデアとして実際に機能するようになる」ということだ。確かにアンダーソンのコレクションは咀しゃくし、実際にワードローブに取り入れる準備ができるまでには多少時間がかかることも多い。しかし、アイデアの探求と追求により、彼はこの10年で「ロエベ」のスタイルとアティチュードを築き上げた。そして、バリエーション豊富なバッグをはじめとするアクセサリーの人気もあり、クリエイションにおいて高い評価を得ながらビジネスでも結果を出している。その両立を続けることは容易くはなく、アンダーソンは今のラグジュアリーファッション界でトップを走るデザイナーと言えるだろう。フィナーレに登場した彼は、今季も拍手喝采で迎えられた。