「夏バテ防止には映画館にこもるのが一番じゃね?」と気づいてしまったあなたが観るべき3本。
『Chime』 黒沢清(監)
黒沢清監督による今年2本目の新作は、前作『蛇の道』が序の口だったんじゃないかと思われるほどやばい。料理教室の講師が、1人の生徒から謎の打ち明け話をされたことに端を発するスリラーとひとまず説明できるがしかし、45分の中編映画ってこともあり、やりたい放題やりまくって時間が来たら「はい終了」と言わんばかりの破茶滅茶さ。これはもう、キッチン空間において考えうるあらゆる恐怖描写をメインディッシュに据えた、目眩く不穏で邪悪なショットの満漢全席だ。そこには「伏線回収」もなければ「考察」の余地もない。実際、主人公の妻が大量の空き缶の詰まったゴミ袋を溜め込んでいる理由など考えても仕方がない。正しい向き合い方はおそらく、「ゴミ袋の空き缶が鳴らすシャンシャンシャン~音ってこんなに怖かったっけ?」。そんな新世界への回路すら開いてくれる必見中の必見作。来月はさらに『Cloud クラウド』の公開が控えているんだから、もう現在は黒沢清の世紀になっているのだろう。8月2日よりStranger他で公開。 8月はこんな映画を観ようかな。
『箱男』 石井岳龍(監)
段ボールの中で生きる男たちを通して、現代人の実存不安に肉薄した安部公房の小説『箱男』。1997年、戦後日本文学の金字塔と称させる同作の映画化を企てながら、ハンブルクでのクランクイン前日に撮影中止を余儀なくされたのは、石井岳龍監督だ(当時は石井聰亙名義)。あれから27年、満を持して誕生したのがこちら。原作の複雑難解な語り口を残しつつ、よりピュアな自分探し譚として昇華されているのが興味深い。それも含め、ストーリー展開、字幕やナレーションの入れ方、女性キャラの立ち位置、そして何より衝撃的な肉弾戦(しかし、こちらで戦うのはロボットではなく、段ボールの中に入った永瀬正敏と浅野忠信!)などなど、おそらくバイブスが一番近いのは『新世紀エヴァンゲリオン』ではないか。とにかく今は、石井監督の『狂い咲きサンダーロード』を人生の一本に挙げる芸人の永野に本作の感想を聞きたい。8月24日より公開。