70歳、中小企業を経営しています。報酬は月80万円なのですが、年金を全額受け取るために報酬を減額したほうがいいでしょうか?
報酬が高くても受け取れる年金はあるが……
Tさんの70歳時の老齢厚生年金額(報酬比例部分)を図表1で見てみましょう。 【図表1】
前段から、Tさんは報酬額が高い場合でも、国民年金部分である老齢基礎年金と厚生年金保険部分である経過的加算額は受け取ることができます。しかしながら、いままで納めた保険料相応分を受け取れないのに納得できないというのであれば、報酬を下げるしかないのです。
経営状態と事業承継を考える
今後、Tさんはどのように報酬額を決定すればよいのでしょうか。まず前段から、現状の報酬額から支給停止額を計算します。 185万2030円÷12=15万4335円/月(報酬比例額の1月分) 支給停止額=(65万円(総報酬月額相当額)+15万4335円(基本月額)-50万円) ÷2=15万2167円 15万4335円-15万2167円=2168円/月 支給停止調整額が48万円(2023年度)から50万円(2024年度)に引き上がったため、全額停止から一部支給になりましたが、報酬比例額のほとんどは停止されています。 年金を全額受け取るには、報酬を月30万円ぐらいに引き下げる必要がありますが、いままでの報酬の半分以下になってしまいます。例えば、会社の経営状態の悪化に伴い役員報酬を下げることは有効と考えられます。 報酬を引き下げ、全額年金を支給されたとしても、収入は約半分になるため、役員自身の日常生活や事業承継のためなど、納得できる相応の金額なのか検討する必要があるでしょう。
まとめ
70歳以上の人は、厚生年金保険の保険料の負担はありませんが、厚生年金保険の適用事業所で働いている場合、在職老齢年金の仕組みは適用されます。 年金が支給停止された部分は、さかのぼって支給されるものではありません。また、年金の繰下げ制度を使ったとしても、停止された年金は増額しません。年金は高齢期のリスクに備える保険です。役員の年金の考え方として、会社の経営状態と年金に対する考え方しだいではないでしょうか。 出典 日本年金機構 在職老齢年金の支給停止の仕組み ~働きながら年金を受けるときの注意事項~ 厚生労働省 令和6年度の年金額改定について 執筆者:三藤桂子 社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、FP相談ねっと認定FP、公的保険アドバイザー、相続診断士
ファイナンシャルフィールド編集部