シャトー・マルゴーも ボルドーが最高級赤ワインの頂点に君臨し続ける理由
連載《なぞときワイン》
大西洋に面したフランス南西部のボルドー地方で造られるボルドーワインは何世紀もの間、最高級赤ワインの代名詞として世界の頂点に君臨し続けてきた。とりわけ一握りのトップクラスのシャトー(ワイナリー)が造るワインは愛好家の垂涎(すいぜん)の的だ。そのシャトーの経営者が最近、相次いで来日。インタビューし、色褪(いろあ)せない理由を聞いた。 【写真はこちら】16世紀創業のマルゴーの若き経営者ほか、2023年に来日したボルドーワインの造り手ら
■16世紀創業のマルゴーは若き経営者がさらに挑戦
「ボルドー五大シャトー」の1つシャトー・マルゴーは2023年10月、最高経営責任者(CEO)を43年間務めたコリーヌ・メンツェロプロス氏が退任し、息子のアレクシス・レーベン・メンツェロプロス氏がCEOに就任すると発表した。そのメンツェロプロス新CEOが11月下旬、来日した。 1993年生まれの30歳。「これほど若いCEOはボルドーでも少ないが、家族経営のシャトーとしてはそれほど珍しいことではない。私の母も27歳で祖父から経営を引き継いだ。今は、歴史ある偉大なシャトーの経営を任された幸運に感謝しつつ、よし、頑張ろうという気持ちだ。ただ、まだ若輩者なので勉強することはたくさんあるし見聞も広めたい」と笑顔を交えながら早口の英語で理路整然と語る。若いエネルギーを感じると同時に、謙虚な受け答えが印象的だった。 マルゴーのワインは、口に含んだときのしなやかな印象から、五大シャトーの中で最もエレガント、女性的と評される。だが、メンツェロプロス氏は「マルゴーのワインに関しては『ベルベットの手袋をはめた鉄の拳』という表現が好きだ」と言う。その心は、エレガンスやしなやかさと同時にパワーと激しさを備えたワインだからだ。 実際、イメージとは裏腹に、マルゴーにはタンニン成分を多く含みワインに骨格と力強さを与えるブドウ品種カベルネ・ソーヴィニヨンが75%前後もブレンドされている。「カベルネ・ソーヴィニヨンが90%以上という年もある」とメンツェロプロス氏は明かす。しかし「タンニンがワインによく溶け込んでいるため、パワーだけでなくしなやかさも感じられる」と説明する。 マルゴーの歴史は16世紀にまで遡る。現在の名声は400年以上に及ぶ長い歴史と伝統の上に築かれたものだ。しかし、名声の上にあぐらをかいて評判を落とすシャトーは少なくない。市場の期待や要求に絶えずこたえていくには、受け継がれてきた伝統を守ると同時に、時代に合わせた大胆な改革が必要だ。 一例が、2015年に新しい醸造施設を建て、最新の分析器を取り付けた発酵タンクを導入したことだ。ブドウから抽出されたタンニンや色素のレベルを正確に把握することができ、エレガントでバランスに秀でたワインを安定的に造ることが可能になったという。 畑の管理にIT(情報技術)を取り入れ、そのために4人の専従スタッフも置いた。さらに、専従スタッフ2人と数人のインターンからなるR&D(研究開発)チームをつくり、新たな品種を植えたり、剪定(せんてい)の仕方を変えたり、様々な素材の発酵タンクを試したりと、多様な試みを継続的に行える体制を整えた。 メンツェロプロス氏は、最新技術の助けも借りながら「ブドウの栽培においても醸造においても一昔前と比べて厳しい基準でワイン造りを行っている」と強調。その結果、シャトー・マルゴーの生産量は1980年代の年間約25万本から現在の10万~12万本へと半分以下になったが、品質は「30~40年前に比べて向上している」と断言する。