江村美咲のパリオリンピック後の成長 フェンシング全日本選手権を東京五輪金メダリストが分析
私も3年前の東京五輪で金メダルを手にしましたが、当時はコロナ禍が続いていたため、メダリストの凱旋パレードや大規模イベントなどは行なわれませんでした。それでも大会の直後は忙しい毎日を過ごしました。 当時は「応援への感謝を伝えたい」という思いと、フェンシングやスポーツの力を社会に還元するという責任を感じていました。パリ五輪の出場メンバーも、競技の魅力を積極的に発信し、熱心に活動してくれていると感じます。 ●江村美咲のプレー、発言に感じた成長 全日本選手権では女子サーブルで、パリ五輪の旗手を務め、団体戦で競技初の銅メダルを獲得した江村美咲選手が見事に優勝を果たしました。準々決勝では大会連覇を目指す高嶋理紗選手、準決勝では尾崎世梨選手と、パリ五輪団体戦のチームメイトに勝利。決勝ではサポートメンバーとしてチームを支えた小林かなえ選手を退け、2年ぶり4回目の優勝を手にすることとなりました。 9月からフィジカルを中心にした調整を続けた江村選手は、次のように大会を総括しました。 「オリンピックなどは関係なく、純粋に勝ちたい気持ちがあった。負けに対する怖さがなく、のびのびと試合を楽しめたと思います。頭がクリアになっていて迷いがなかったです」 江村選手はパリ五輪について、「個人戦の日は朝起きた時から身体が重く、コンディションもよくなかったので、戦術を考えたり、相手との駆け引きを楽しむ余裕はなかったです。団体戦の時はフェンシングに自信を失っていて、(メダルを獲得したものの)自身のパフォーマンスに納得がいかなかった」と振り返りました。しかし全日本選手権後の表情からは、五輪で失いかけた自信を取り戻したように感じましたし、大きな経験を経てさらに成長を遂げたんじゃないかと思います。 さらに今後の目標として、年間10試合の国際大会のなかで最も重要な世界選手権に向けて「コンディションのピークを計画的に作っていきたい」と意気込みを話していました。 特定の試合で最高の状態を作るために短期的、または長期的にトレーニングを計画して実施することを、専門用語で「ピリオダイゼーション」と呼びます。江村選手がそれをモノにできれば、次のロサンゼルス五輪でベストパフォーマンスを発揮するための大きな武器になるでしょう。世界ランキング1位にまでなりながら、強さを維持するのではなく、さらなる高みを目指す姿には頭が下がります。