30年たった今も見つかる2千人の骨、殺りくをあおったラジオの教訓 80万人犠牲のルワンダ大虐殺、今も続く悲しみと希望
「隠れているツチ人を探し出して殺せ!」。1994年4月、首都キガリ中心部のホテルに勤めていたウェラス・ビズムレミさん(70)はフツ系ラジオ局のアナウンサーが放った言葉を鮮明に覚えている。「まるでスポーツの試合を実況するような口調だった」と異様な雰囲気を振り返る。「それまでは娯楽番組やニュースを放送する普通のメディアだった」とビズムレミさん。変節したラジオは「ツチ人はゴキブリだ!」と連呼し、ツチ人が多い地区の名を挙げてフツ人に「向かえ」と叫んだ。人々の間では当時、現地のキニヤルワンダ語で「炎上」を意味する「ルトイーチ」がラジオの代名詞となったほどだった。 虐殺から10年後の2004年、オランダのNGOの支援で始まったのが、和解を促すラジオドラマ「ムセケウェヤ(新しい夜明け)」だ。架空の二つの村を舞台に起こる家庭内不和といった身近なトラブルを題材に、相手の立場に立つ大切さや不条理に抵抗する勇気を伝えてきた。1回約20分の番組は千本を超え、国民の7割が聴いているとの調査結果まである。
脚本家のムサガラ・アンドレイさん(59)が説明する。最近のエピソードでは「夫婦関係の不仲もあって集落の中で孤立し、酒におぼれて入院した男性」を登場させた。夫婦は別の民族という設定を背景に織り込み、妻に不信感を持った夫は妻の作る食事も喉を通らない。架空の人物を反面教師に、かつて虐殺をもたらした民族間の不和を繰り返してはならないとリスナーに意識してもらうことが狙いだ。番組の影響は絶大で、聴取を通じて対話の必要性を知ったツチとフツの村双方の若者2人がビールを酌み交わし、村同士の和解につながったことまであるのだという。 「ラジオは今、良い役割を果たしている」。制作責任者ルワンガ・ルクンドさん(50)が力を込めた。番組継続のために予算を確保しなければならないのが悩みの種だが、「メディアはどんな時でも正しい情報を伝えなければならない。虐殺が起きていようがいまいが関係ない。あと20年は続けるよ」と決意を語るルクンドさん。その表情に、同じメディアの人間として襟を正す思いだった