「私たちは最初の20分で解決法を提示します」新宿・歌舞伎町『日本駆け込み寺』にオールナイト密着
陽も沈み、辺りが薄暗くなる夜7時頃。昼間はバスケを楽しむ若者で賑(にぎ)わっていた大久保公園(東京都新宿区)が閉場し、周囲は別の賑わいに包まれる――。公園を背にして、等間隔にぐるりと立ち並ぶ、″立ちんぼ″女性らを見定めるように男性たちがソワソワと歩き回る。そんななか、彼女たちに何かを手渡してまわる女性の姿があった。 【画像】すごい…!歌舞伎町『日本駆け込み寺』の様子…! 「今は路上にいる女性や子供たちにちょっとしたスキンケア用品や冷却グッズを渡していました」(シホ・仮名・28) 訊(き)くとシホさんは公益社団法人『日本駆け込み寺』のスタッフだという。 「DVやパパ活のトラブルなどさまざまな相談にのっています。今は夏休みで、中高生が増えているので、オールナイトで活動しているんですよ」(同前) 公園周辺を巡回し終えると、シホさんは『TOHOシネマズ新宿』脇の通りへ。そこには身を寄せ合って地べたに座り、エナジードリンクを飲む10代らしき少年少女が8人ほどいた。閉じ籠(こ)もるように輪を作って話し込むトー横キッズが、シホさんを見るなり「あー!」と手を振って駆け寄る。 キッズたちは「最近○○と連絡が取れなくて」「××に彼氏ができたっぽい」と近況を話しつつ、シホさんにちょっとした相談をしていた。事務所に戻ると、10代らしきカップルがスマホを見ながら休憩していた。『日本駆け込み寺』代表理事の玄秀盛(げんひでもり)氏(68)は22年間にわたり、歌舞伎町を見てきた。 「今まで5万件以上の相談にのってきました。15年くらい前までは立ちんぼのバックにヤクザがいて、毎月10・25日に10人以上の組員がずっと見回りをしていたから、今よりも規律はあったと思う。当時は外国人女性の立ちんぼが多かったけど、’11年に暴力団排除条例が施行されてからヤクザの介入がなくなり、個人売春の日本人女性たちが現れた」 ◆あえて死ぬ方法を教えた ’02年創設当初は、主に歌舞伎町内で起きた20歳以上の痴情のもつれを解決していたが、近年は北海道や九州など遠方から助けを求めてやってくる10代の若者が増えたという。 「親から行方不明の子供を探して欲しいって依頼もよう来るよ。そういう時はだいたい部屋のゴミ箱にヒントがある。前に親の依頼で17歳の娘を探した時は、彼女の部屋のゴミ箱から見知らぬ名義の携帯電話の保証書が出てきたんです。そこから契約情報を問い合わせて、契約者の住所を割り出し、行ってみたら、娘は原宿の路上でTシャツを売ってる25歳の男と暮らしてることがわかったんです。男が未成年の彼女に携帯を買い与えてたんですね。結局、男が遊び人だったので、ムリヤリ別れさせましたわ」(同前) 相談件数は年に1000件以上。あらゆる相談が持ち込まれるが、玄氏は最初の20分で解決法を提示するという。 「迷いなく即決することが最も大事やと思いますよ。DV男から逃げてきたのなら匿(かくま)って物理的に男と縁を切らせるし、40年間愛人関係だった男から慰謝料を取りたいなら弁護士を手配してやる。大手企業の会社員が未成年のパパ活女子に逃げられたから彼女にかけた100万円を取り返したいって来たことがあったけど、それは『逆に向こうがパパ活で訴えてきたらすべて失うからやめとけ。いい思いしたんやろ』って止めた。キャッチをやっていた若者が、スカウト組織を抜けたいけど組織内の人間に借金させられて抜けられない、って泣きついてきたら、弁護士も警察も全部使って抜けさせる」 玄氏に話を聞いている最中も数人の女性が自由に事務所を出入りしている。10代後半と思(おぼ)しき女性が慣れた様子で入ってくると、「え、食べる、ありがとう~!」とスタッフから受け取ったお菓子を食べた。駆け込んでくるのはほとんどが女性だが、男性が来ることもあるという。 「最近だと妻子持ちの34歳の男性が『自殺したい』って来ましたよ。でも死にたい人の気迫じゃない。だからあえて死ぬ方法を教えたんです。ダメ押しで、死んだらチャラになるから死ぬ前にお金を借りて家族に送れって。『アイフル』の前まで一緒に行った。そしたら急に『なんで死ぬ理由を聞き出そうとしてくれないんですか~』って泣き始めて……。結局、そいつの家族や親類が心配して探してることがわかったので家に帰らせました」 後日、相談者から感謝の手紙が送られて来ることもあるが、玄氏は返事を出さないという。 「当時のことを早く忘れる、それが相談者にとっての本当の解決やと思います」 来る者拒まず、去る者追わず。一緒に思い悩まず、あくまで他人事として最短で解決を目指す玄氏のスタンスが相談しやすい駆け込み寺を形作っている。 『FRIDAY』2024年9月20日号より
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