無名からドラフト1位候補に 関大の左腕金丸夢斗を導いた大先輩の剛速球投手
久々の登板で好投
プロ野球ドラフト会議が約1カ月半後に迫った9月中旬、1位候補に挙がる関大の本格派左腕、金丸夢斗投手(21)は「ここまで来るとは想像していなかった」と率直な心境を語った。神戸市の神港橘高から入学。4年生になった今春まで、関西学生野球のリーグ戦で通算20勝3敗、防御率は驚異的な0.88をマーク。2年生の秋から18連勝を記録するなど「無双」の投球を続けてきた。とはいえ、ここに至るまでは決して順風満帆ではなかった。平凡だった中学・高校時代、一度は諦めたプロへの道、大先輩でもある元剛腕投手との運命的な出会い…。「無名」だった金丸が逸材にのし上がった要因とは。(時事通信大阪支社編集部 堀川祐) 【写真】侍ジャパン強化試合の欧州代表戦で力投する先発の金丸夢斗=3月 金丸は今春のリーグ戦後半に腰を痛めて離脱。大事を取って静養し、リハビリに努めて今秋、大学生活のラストシーズンを迎えた。9月7日のリーグ戦開幕に先だってプロ志望届を提出。公表が始まった同2日、大学生では「いの一番」で名を連ね、強い意志をにじませた。「1位で(プロに)行くことが目標なので、そういう結果になればうれしい。そこでしっかりと活躍できるように、次のステップへの準備はしている」 久々の登板となった近大2回戦で、九回の1回を投げて無失点、2奪三振。翌週は立命大との2回戦で同様に1回無失点の2奪三振。連投となった3回戦では終盤の3回を無失点に抑え、5三振を奪った。慎重に着実に、ステップを踏んでいるようだ。「今までたくさん試合を経験してきたとはいえ、いつもと違うような感覚は少しあった。まずは冷静に打者と勝負できたところがよかった」と振り返った。 ◆遅い成長期、もがく日々 小学1年生で野球少年になった。きっかけは高校野球の審判をしていた父、雄一さんの影響だ。最初は野球にそれほど興味が持てなかったというが、球場で試合を見たり、雄一さんとキャッチボールをしたりするうちに楽しくなった。朝6時に二人でランニングをすることが毎日のルーティン。中学ではその日課をこなした後に部活の朝練があり、さらには夕方からは通常の練習が待っている。疲労困憊(こんぱい)で授業中に寝てしまうこともしばしばあった。 中学時代を振り返り、今となっては「そこで肉体的にも精神的にも鍛えられた」と言える。一方では成長期が遅く小柄だったこともあり、目立った存在にはなれなかった。「速い球も投げられなかったし、コントロールのいい普通の左ピッチャーみたいな感じだった。でも、野球はめちゃくちゃ好きだった」。神港橘高に進学後も2年間は球速がなかなか伸びず、けがも重なった。野球への情熱は常に持ちながらも、体が思うように丈夫にならず、もがく日々。「野球を続けたいけど、今の実力では続けられない」。夢見ていたプロ野球選手を諦め、トレーナーなど裏方への道を考えた時期も長かった。 ◆高3のコロナ禍、体と意識が変わる 運命を大きく変えたのが、3年生になった2020年。新型コロナウイルスが猛威を振るい、一時は学校が休校となり、部員同士で集まることもできなかった。高校野球に限らず、スポーツ界が停止状態に。夏の甲子園がなくなり、大きな目標も奪われた状況下、それでも一筋の光明が差す。自分の体が目に見えて成長したことだ。 身長は入学時の165センチから175センチに。「全体練習もなかったので、自分で練習をして何が足りないのかをもう一度見直した。そこで意識が急激に変わった」。黙々と励んだ体づくりも実を結び、球速は5キロほど増えて140キロに達した。「ここで(野球を)やめるのはもったいない。もう一回始めよう」。だが、実績もなければ、コロナの影響でアピールする場も限られた。 ◆山口高志さんが道しるべに 窮地を救ってくれたのは元プロ野球阪急(現オリックス)の投手、山口高志さん(74)との出会いだ。「本当に運がよかった」と金丸。神港橘高の前身は市神港高で、山口さんの母校でもある。古くは戦前の第一神港商業時代、春の選抜大会連覇を果たした歴史を持つ。金丸の練習を見に来てくれた山口さんの誘いが、関大への進学を導いた。「昔の山口さんの投球はあまり知らなかったけれども、存在は知っていた。間近で見て、それほど大きくない体でも(推測で)160キロ近くを投げていたと聞いてすごいと思った」 山口高志―。オールドファンなら誰もが知るであろう剛腕だ。関大時代は通算46勝、年間18勝、21連勝、68イニング連続無失点など今も残る連盟記録をマーク。社会人野球を経て入団した阪急では先発、抑えに大車輪の活躍で黄金期を支えた。阪神の2軍コーチ時代は若き藤川球児投手を指導し、フォーム修正などを助言。開花した藤川は「火の玉ストレート」を武器に球界屈指の救援投手へと成長した。山口さんは現在、関大のアドバイザリースタッフを務めている。