<城が語る>ロンドン世代が生み出したハリルJの新たなサッカー観
新しい世代が生み出した勝利だった。本田、香川、岡崎がスタメンから外れた。4日前に行ったオマーン戦でのコンディション、試合勘の有無などをチェックする中で、ハリルホジッチ監督は、大迫、原口、清武、久保(彼はリオ五輪世代)らのロンドン五輪世代の勢いに賭けたのだろう。この采配は結果的に正解だったし、想定内の起用だった。そして、ロンドン五輪世代が、ここまでは膠着していた代表チームの空気も戦い方も一変させた。 ゲームメイクしたのは、トップ下の清武だった。原口を生かし、久保を生かし、そこにプラスして自らも仕掛ける。彼がボールを持てば全員が動き、スムーズな連携の発信源となった。清武も本田同様、所属チームでの出場機会は少ないが、遠ざかった試合勘の影響を感じさせなかった。元々のポテンシャルの高さもあるが、私はモチベーションの違いだと思う。彼が抱く危機感だ。 大迫もゴールこそなかったが、受ける、ためる、周りを使うという攻撃の起点になった。しかもハイプレッシャーの中でも、動揺することなくボールをキープできていた。ディフェンスの裏も狙うし、そしてゴール近くでは、自ら仕掛けることもした。前半、得意の反転シュートも放ったが、精度の高いオールラウンドプレーヤーである大迫の存在は、サウジのディフェンスからすれば脅威だったと思う。 そして、この試合のMVPには原口を挙げたい。これまでは「自分はできるんだ」というプライドと「やらねばならない」のプレッシャーからか、がむしゃらさや勢いだけが目立ちプレーが雑だったが、この日の原口はそういう一種のエゴイズムを捨てて、チームのためにやらねばならない仕事を徹底した。献身的に守備に頑張り、ドリブルでサウジディフェンスを切り裂き、プレーヤーとしての攻守のトータルバランスが素晴らしく安定していた。彼の運動量はチームナンバーワンだったし、何しろ絶対に負けないという気持ちを前面に出すプレーは、見ているものの体を熱くさせるほどだった。 私は、本田、香川、岡崎らがピッチにいなかったことが、彼らロンドン五輪世代の連携をスムーズに躍動させたと見ている。実はサッカーには、世代、世代に通じる独自の感覚というものが存在する。世代によって微妙にサッカーの質、サッカー観が違っていて、その波長が合う、合わないが出てくるのだ。私の現役時代もドーハ世代とアトランタ世代には違ったサッカー観があった。それらは言葉では表現しにくいのだが、世代が違うと、発想力や、動き、スタイルにも違いが生まれる。