「触らない痴漢」“匂いを嗅ぐ” “体を密着させる”… 被害を受けたらどう対処するべきか【弁護士解説】
身体的な接触はないものの、「匂いを嗅ぐ」「体を密着させる」「息を吹きかける」などの〝触らない痴漢〟が急増しているという。 【X投稿動画】匂いを嗅ぐなどの新手口「触らない痴漢」に苦心 4月21日、東海テレビは、名古屋駅に拠点を置く「愛知県警鉄道警察隊」に密着し、〝触らない痴漢〟の実態を報じた。
「近年急増している新たな痴漢の手口」
番組では、電車内で十分なスペースがあるにも関わらず、立っている女性の背後にピッタリ体を寄せて立ち、匂いを嗅いでいた60代男性に、捜査員が警告する様子などが放送された。また、〝触らない痴漢〟について、「『わざと至近距離に近づいてにおいをかぐ』『首筋や耳などに息を吹きかける』『見知らぬ相手に、スマホのデータ共有機能でわいせつ画像を送り付ける』といった行為で、近年急増している新たな痴漢の手口」と解説している。 しかし、愛知県の迷惑行為防止条例では、痴漢を規制する「体への接触」は明記されているものの、こうした行為には明確な規定はないという。 一方、SNS上では、エスカレーターに乗りながらスマホの画面を見つめている女性に背後から近づき、ロングヘアの後ろ髪の匂いを嗅ぐ怪しい男の動画などもアップされている。こうした〝触らない痴漢〟については、当然、「キモい」と言った声から、「今後は、凝視するだけで痴漢と言われる時代が来るかも」など、過度な規制を危惧するものまで、さまざまな意見が書き込まれている。
犯罪として取り締まるのは困難?
痴漢をして強制わいせつ罪として有罪となれば「6カ月以上10年以下の拘禁刑」の刑事罰に科される可能性もあるのだが、この手の〝触らない痴漢〟を「迷惑防止条例」などで取り締まる方法はないのだろうか。多くの犯罪事件に対応する杉山大介弁護士はこう話す。 「理屈だけで言えば、可能なものもありますよ。例えば東京都だと、『人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること』(条例5条3号)という文言ですので、接触を絶対に必要としているわけではないんです。 東京都の場合、盗撮をしようとしてスマホなどの機材を相手に差し向けただけでも別の条文で処罰の対象になっていますが、盗撮の差し向け行為を卑わいな言動として取り締まった例もあります」 しかし、実際、それを立証しようとすると、困難が伴うと言う。 「そこに立っているだけの行為を犯罪と認定するには、『匂いを嗅ぐために執拗(しつよう)に後ろに立ち続け、実際に臭いをかぎ続けた』というレベルの事実を立証できなければなりません(なお、それでも卑わいな言動に当てはまるかは議論があるでしょう)。 被害者自身は後ろの人間を目撃できませんから、ずっとその様子を見ている目撃者や監視カメラの映像などがないといけませんよね。それでも、臭いを嗅いでいたと立証することは難しいでしょう」 このあたりは、前出の鉄道警察隊も苦慮する様子が描かれていた。杉山弁護士が続ける。 「不自然に体を密着させて、匂いを嗅いでいたら〝キモい〟のはその通りなんですけど、匂いって究極的には、嗅ぐ気がなくても鼻に入ってくるものですからね。本当に断定できる状況って存在し得ないと思いますし、そこまで曖昧な状態で警察が刑事事件として扱うのは、冤罪(えんざい)の危険性もかなり大きくなります。 警察を含めた周りも『不必要に近づかないでください』と指導するぐらいの温度感が健全で、今回の例のような後ろで臭いを嗅いでいたというだけで、犯罪として取り締まるべきではないと思います」