【和田彩花×村上由鶴】きっかけはアイドル時代の違和感。アートとフェミニズムを考える【国際女性デー特集】
写真が生み出す権力関係、アイドルの労働問題…。これから二人が向き合いたいこととは
――お二人の発信に、希望をもらったり共感する人も多いのではないかと思います。これまでのご活動や研究を踏まえて、お二人は今後、どんなことに取り組んでいきたいと考えていますか? 村上さん:私は、写真が暴力になることについて研究を深めていきたいと思っています。というのも、写真芸術について文章を書くなかで、カメラや写真そのものの暴力性について、考える必要があると思っています。特に、スマホの登場によって、写真は“鑑賞するもの”から、“誰もが撮影し、撮影され、SNSに投稿するもの”に変わってきていて、それに伴って写真に関連するトラブルが起こりやすくなっていますし、写真の持つ影響力も変わってきているんです。 例えば、“リベンジポルノ”において、写真が“脅し”や”暴力“の道具になる経緯について研究していて。なぜ裸の写真を撮るのか、なぜ撮らせてしまうのか、それが親密な関係性を示す記録から、どう凶器に変わっていくのか…。リベンジポルノという特殊な状況でなくとも、カメラを向けられると、被写体は自然と言われた通りにポーズをとってしまいますよね。「右向いて」と言われたら、右を向いてしまうように、カメラの存在が被写体の主体性を奪い、撮影者が一種の権力を持ってしまうことがある、とか。 和田さん:面白い…! 私はずっと“写真を撮られる側”だったので、村上さんの研究、とても興味があります。それこそ昔、ある撮影で、“お姉さん座り”のポーズを上から撮らせてほしいと言われた経験があって。絵画で「下から見上げるようなアングルだと、服従しているようにも見える」という画角について勉強していたので、できるだけ上目遣いの受け身な見え方にならないように自分で調整していましたね。 村上さん:なるほど。撮られてきた側ならではの経験、という感じがします。和田さんは、今後挑戦してみたいことはありますか? 和田さん:私は、アイドルのユニオン(労働組合)を作りたいですね。アートの世界には、現代美術に携わるアーティストによるユニオンがあって、不当な搾取やハラスメントのない環境整備をしていこうという動きがあるんです。でも、不当な搾取や人権について考えなければならないアイドル業界には、今それがありません。アイドル文化が根付く日本で業界全体が健全に発展するためにも、絶対にユニオンはあったほうがいいと思うんです。 村上さん:それ、すごくいい。アイドルは、事務所との契約とか、交渉事項も多そうだし…。 和田さん:そうなんです。頼れる場所を作りたいなと。 村上さん:私は、研究の傍ら、人権啓発の仕事をしているのですが、労働者の権利を守るための組合活動は本当に重要だと感じています。アイドルの業界のユニオンができること、楽しみにしています! 写真研究者 村上由鶴 むらかみ・ゆづ●1991年、埼玉県出身。日本大学藝術学部写真学科助手を経て東京工業大学環境・社会理工学院 社会・人間科学コース博士後期課程在籍。日本写真芸術専門学校非常勤講師。公益財団法人東京都人権啓発センター非常勤専門員。2023年8月に、『アートとフェミニズムは誰もの?』(光文社)を出版したほか、共著に『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ』(フィルムアート社)がある。POPEYE Web「おとといまでのわたしのための写真論」、The Fashion Post「きょうのイメージ文化論」など、さまざまなメディアで連載中。写真やアート、ファッションイメージに関する執筆や展覧会の企画も行うなど、多岐にわたる活動を展開。 オルタナティブアイドル 和田彩花 わだ・あやか●1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドルグループ『スマイレージ』(のちに『アンジュルム』に改名)のメンバーとして活躍。2019年6月にグループを卒業してからは、ソロで音楽活動を続けている。また、アイドル活動の傍ら、大学院で学んだ美術に関する情報発信も行なっている。さらに、2022年からパリに留学し、昨年帰国した。近年は、アイドル界が抱える労働や差別の問題解決に向けた活動にも力を入れている。 画像デザイン/前原悠花 取材・文/海渡理恵 撮影/上澤友香 企画・構成/種谷美波(yoi)