河野談話「見直さない」けど「検証する」って? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
「官房長官談話」の位置づけとは
ところで官房長官談話とはどの程度の重みがあるのでしょうか。おそらく「政府の見解」といったところ。法律や条約のような決定的な存在ではなく、かといって単なるヨタ話でもありません。言い換えると絶対視も軽視も可能な言葉です。 焦点の「軍の強制性」を明白に示す文書などは今後も出てきません。なぜならば出していないから。軍とは何より規律を重視するので「兵の性欲充足のために慰安婦を強制的に徴収せよ」と愚の骨頂な命令を書き残すはずもありません。同時に「いなかった」と証明するのも無理でしょう。慰安所があって慰安婦がいて軍が管理に関与していたのは間違いなく(でなければ慰安所が存在できない)今の朝鮮半島に生まれ育った女性が多数いたのも事実で、なかに1人も「本人たちの意思に反して集められ」ていないとするなど不可能です。 アメリカの陰を勘ぐる意見もありますが微妙なところ。日米は太平洋戦争で敵同士だったから、旧敵国の悪さは悪いという立場を変えられないし(その気も当然ない)、その戦争で軍が「悪いことをしました」と告白した政府の見解を覆すとなると白い目でみるでしょう。「性」の問題にうるさい国であるのも確か。首相側近の1人が「アメリカは民主党政権だから」といった趣旨の発言をしました。でも共和党のゴリゴリ保守もこうした問題は人一倍手厳しいのです。 現実問題として北朝鮮の核問題や、台頭する中国の存在感に対抗する日米同盟および米韓同盟を揺るがすようなケンカを日本は韓国に売るなという身もフタもないアメリカの国益から談話変更の動きを許さないというのもありそうです。 --------------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】