河野談話「見直さない」けど「検証する」って? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
「河野談話」時代の官房副長官
ではパンドラの箱に手をかけさせた石原信雄という人物は何者でしょう。河野談話作成時に内閣官房副長官であったという肩書きが鍵です。そうでなければ、またそうであっても国会での証言でなければたぶん菅氏は「検討」云々と言い出さなかったと推察されます。 日本を官僚という名の高級公務員が動かしているのはいまだ事実でしょう。官房副長官とはそのトップに位置する官僚の親分です。内閣官房とは「官邸」と通称されます。アメリカの「ホワイトハウス」やフランスの「エリゼ宮」と同じような意味合いです。そこを実質的に取り仕切っているボスだったのが談話作成当時の石原氏でした。官僚は物事に精通し、前例を踏襲し、整合性を大事にします。「河野談話」以前の強制性は認められないという見解を支持する側の頭領といっていいでしょう。 もちろん官邸の主は内閣総理大臣(首相)であり、内閣官房のトップは「長官」(国務大臣)です。当時は宮澤喜一首相と河野洋平官房長官のコンビでした。2人とも選挙で選ばれ、首相は「国権の最高機関」国会で指名され、官房長官はその首相から任命されているので副長官より格上なのはいうまでもありません。彼らは政治家で日韓間の外交のもめごとを「政治決着」させる地位にいます。事務方の副長官は最終的に従わなければなりません。河野談話作成の前に当時の金泳三韓国大統領が日本に「真相を明らかに」すべきで、そうすれば両国関係は前進するとのシグナルを送っていたのは明白で、宮澤政権がそれに乗った可能性濃厚です。先に述べた官僚の特性を考え合わせると石原氏のストレスは相当のものであったはず。
談話批判派・支持派の双方から非難
石原証言といういわば身内の知恵袋の「謀反」であわてた菅官房長官はどうとでも取れるはずの「検討」を口にしてつじつまを合わせようとしました。そもそも石原証言の「検討」など実現できません。元慰安婦への聞き取り調査の裏づけとは当時話を聞いた16人を「本当か」と疑うしかなく「うそつき呼ばわりするのか」と反発されるのがオチだし、「すり合わせ」も石原氏の推測でしかなく、当事者の河野洋平氏が「ない」と言えば(言っています)どうにもなりません。韓国側の当事者にでも話が聞けるのでしたら話も別でしょうけど言うまでもなくできるわけありません。 ことの真相は河野談話の裏を知るキーマンが疑問を公の場で発したため火消ししようと「検討」する「だけ」すると談話批判派向けにサービスしたら却って炎上の気配となり、かつ検証のしようもないという事実があるため菅氏も「談話を継承する」と答え、安倍首相にまで飛び火して参院予算委員会で談話について「歴代内閣の立場を引き継いでいる」(踏襲する)と答えたという流れとみられます。かくして「検証するが見直さない」という意味不明の経緯となって談話批判派からも支持派からも「わけわからん」と非難される結果に陥りました。