河野談話「見直さない」けど「検証する」って? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
2014年3月25日、安倍晋三首相は韓国の朴槿恵(パククネ)大統領と互いに就任以来初の正式会談をしました。アメリカのオバマ大統領が日韓両首脳を招くとの形で実現したのです。オバマ大統領からすれば「とにかく握手ぐらいしろ」が本音でしょう。直前に起きた慰安婦問題での新たな展開に関しては互いに触れないままでした。 <慰安婦問題>「河野談話」の全文 3月の参議院予算委員会で菅義偉官房長官が「河野談話」について、見直しはしないが検証作業は続ける、という趣旨の答弁をしました。これはいったい、どういうことなのでしょうか。
菅官房長官の発言の背景
2014年2月、衆議院予算委員会で菅官房長官が、「河野洋平官房長官談話」いわゆる河野談話の再検証を「検討する」と述べました。この答弁は、数日前に同じ予算委で参考人として招致された石原信雄元官房副長官の証言を受けてでしょう。石原証言のポイントは3つです。 (1)慰安婦を「強制的に従事させ」たと裏付けられる「文書は発見できなかった」「客観的に裏付けるデータは見つからなかった」。国内外で探したという (2)16人の元慰安婦に対する聞き取り調査の「事実関係の裏づけ調査は行われていない」 (3)談話作成過程で韓国側と「意見のすり合わせは当然行われたと推定される」 うち(1)はもとから日本の主張。問題は(2)と(3)です。(2)の「裏づけ」については「行われていない」以上「もう一度確認」が「必要」と述べました。(3)の「すり合わせ」(「言葉の調整」ぐらいのニュアンス)は石原証言でも「推定」「かもしれない」なので「どのような形」であったか「検証」する、です。そのために「政府」内に「検討チームを作」るとも答えました。
石原信雄氏の証言を無視できず?
まず石原証言の重要性について。菅官房長官は就任直後の記者会見でも河野談話見直しに「政治・外交問題にさせるべきでない」と慎重派。2013年9月の自民党総裁(トップ)選で「新たな談話」を出す「必要がある」と言い切っていた安倍首相など積極派に対するブレーキ側とみられていました。まあ安倍さんも当時野党だった自民党内の選挙では勇ましくても、実際に首相になってから口を閉ざすようになりましたが。 その菅氏が「検討」を考え出したのはキーマンが疑問符を公の席(予算委)で語ったのを無視できなかった「だけ」でしょう。「だけ」のつもりが韓国側から猛反発を受け、謝って屈した印象を国内に与えるわけにもいかないので3月に入って「検証結果にかかわらず(談話を)継承する内閣の方針に変わりはない」と答えざるを得なくなったのが実相に近いと思われます。 河野談話が慰安婦問題に関して旧日本軍の強制性を認めている点については強い批判の声と支持の両方があります。安倍首相の本心が見直し側であるのも過去の言動から明らかでしょう。ただこの談話は「パンドラの箱」のような要素が多々あります。批判派は開ければもめるけど最後に残る希望が大切だと考え、支持派のうち心底強制性を信じている者以外は開けた際の災厄が甚だしいととらえているはずです。