「最後に笑うのは、レアル・マドリーだ」――魔法の1週間で証明した歴史が作る“安定した劇的勝利”
異次元の勝負強さ
マドリーが劇的な勝利を果たすチームであることは、歴史とその歴史を彩ってきたレジェンドが証明している。 チャンピオンズカップ5連覇(1955~1960年)を果たし、現在のマドリーの礎を築いたアルフレド・ディ・ステファノのチームも、その内3回の決勝を逆転で物にした。また1975-76シーズンのチャンピオンズカップ・ベスト16、ダービーカウンティー戦の1stレグ1-4敗戦からベルナベウでの2ndレグ5-1勝利、1984-85シーズンのUEFAカップ準決勝インテル戦の1stレグ0-2敗戦からベルナベルでの2ndレグ3-0勝利も、今なお語り草となっている逆転劇だ。インテル戦の1stレグ後、フアニートがあえてイタリア語で口にした「ベルナベウの90分は長いぞ」という言葉はあまりに有名。ベルナベウでは毎試合7分に「イジャ! イジャ! イジャ! フアニート・マラビージャ(素晴らしきフアニート)!」と、1992年に交通事故で亡くなった元スペイン代表FWの名が、逆転勝利、もっと言えばマドリディスモ(マドリー主義)の象徴として叫ばれている。 ディ・ステファノは「私たちは決してあきらめない。マドリーにはそういった精神があり、脈々と受け継がれてきた」とマドリー特有の精神性を強調し、また1965-66シーズンの欧州制覇に貢献した現名誉会長のピッリは「マドリーは素晴らしい質の選手たちが縦に速く、効率よくゴールを奪う。フットボールが何かと問われればボールを枠に入れることだと答えよう。結局はゴールを決めればいい。それ以上のことは何もないんだ」とマドリーの勝利の作法を語っていた。ロドリゴがシティ戦後、「チャンピオンズは値するかどうかじゃない。ボールを枠に入れるかなんだ」と話していたのは、彼らのDNAが何ら変わっていないことを感じさせる。 しかし……やはり感覚が麻痺しているんじゃないかと疑ってしまう。ディ・ステファノ、ピッリ、またはフアニートのチームが、当時のサポーターにどんな印象を与えていたかを実感することは難しいが、現在のマドリーは劇的勝利を劇的と思わせないほど土壇場や危機的状況での安心・安定感がある。それはきっと、セルヒオ・ラモスの92分48秒弾から優勝を手繰り寄せた2013-14シーズンの優勝を皮切りにして、ここ10年で5回のチャンピオンズ制覇を果たした彼らにだけ宿り、伝承されている、とびっきりの勝者のメンタリティーなのだろう。 ベスト16でPSG、準々決勝でチェルシー、準決勝でシティをすべて超劇的に打ち破った、2年前のチャンピオンズ優勝の延長線上にある現在のマドリーは、ほかのチームでは考えられないほどの深度で勝利の可能性を信じている。彼らは逆境にあっても、決して動じない。プレースタイルにこだわらず、カメレオンのように各状況に適応し、ヴィニシウス・ジュニオールやロドリゴやベリンガムら選ばれし選手たちのクオリティーを生かした超効果的なプレーでゴールを陥れる(……または、どれだけ攻め込まれてもヒビの入らない団結した守備を見せる)。 このマドリーの異次元の勝負強さを、トニ・クロースが自身のパスのような的確さで表現した。 「僕たちはたとえビハインドを負っていても、いつだって戻ってくる。相手はそのことを知っている。試合終了のホイッスルが吹かれるまで、僕たちはずっと勝負し続けるのさ。14回目のチャンピオンズ優勝を果たしたシーズンでは、そのことを感じられたはずだ。強力なチームを相手に自分たちが負けているとき、一つのチャンスや一つのゴールが試合の流れを変える。そうして相手は負けるかもしれないと考え始めるんだ。実際、僕たちは以前にもそうしてきたわけだからね」 「マドリーはスコアに関係なく自分たちのクオリティーを信じ続けられる。これには心理的な面もあって、何度も同じ体験を繰り返せば自信を深めることができ、チーム全体が不可能が可能だと信じられるようになるんだ。耐えてさえいれば、試合はまた新しいチャンスをくれるんだってね。チームメートも同じメンタリティーを持っていて、まったくあきらめることがない。自分たちにはできると分かっているんだよ。だから僕たちは、絶対に試合をあきらめない」