女性よりも男性を出世させがちな「石器時代の脳」 男性偏重の背後にある進化のミスマッチの問題
ファン・フフトはこの見方――石器時代には優秀な戦士や狩人になれただろう身体的特性を持った男性を、現代の私たちが指導者に選ぶ傾向があるという見方――を、「サバンナ仮説」と呼んでいる。 「進化は、私たちを導く者のテンプレートのセットを私たちの脳に焼きつけた。そして、(たとえば、戦時のように)協調が必要とされる具体的な問題に遭遇したときにはいつも、それらのテンプレートが作動する」と彼は説明する。 権威主義的な有力者が、恐れを搔き立てたり対立を引き起こしたりして権力基盤を固めるのも、それが一因だ(「有力者」、つまり「力を有する者」という言葉があるのは、けっして偶然ではない〔訳注 「有力者」に当たる原書の言葉は「strongman」、すなわち、文字どおりには「力の強い人」〕。
彼らは、脅威に気づいたときには強そうに見える人を頼みとするという私たちの狩猟採集民の本能を作動させているのだ。 私たちは、リーダーシップにまつわる偏見に満ちた性差別的なこれらのテンプレートが、自分たち(あるいは、少なくとも私たちの多く)の内には存在しないふりをすることもできれば、その存在を認めて、それを克服する努力をすることもできる。 だが、その努力を始めても、それは戦いの一端でしかない。自分たちの性差別的な文化によって学習したり悪化したりした内なる女性差別も、克服しなければならないからだ。
サバンナ仮説は、男性指導者を好むバイアスにだけかかわるものではない。もしこの仮説が正しいのなら、私たちはただ男性に引かれるだけではなく、大柄で、堂々たる体軀の男性に引きつけられるだろう。 そして、まさにそのとおりなのだ。権力を手に入れるには、背が高いと有利だ。そして、それは今に始まったことではない。 (翻訳:柴田裕之)
ブライアン・クラース :ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン准教授