TKOでV12も山中慎介の“神の左”に不安? 具志堅記録に並ぶ次戦は試練か
山中は「毎試合、プレッシャーは感じている。それがなければ、やっている意味がないというか、毎試合、期待に応えたいというプレッシャーが自分を強くしている。慣れてきているつもりだけど」と言った。 霊長類最強の女子と称えられた吉田沙保里の姿もあった。 リオ五輪の決勝で敗れるまで、公式戦206連勝、五輪V3を含めた世界大会V16を続けていた吉田沙保里も「負けられない」という同じプレッシャーを背負い続けていた。 「やりにくい相手だったように見えましたが、KOで勝ってかっこよかったです。勝ち続けることは、同時に相手に研究されます。山中さんなら左。私なら高速タックル。でも、その上をいくのがチャンピオンなんです。私のタックルにしても、感覚、本能で出るもので、人に教えれるものではないのですが、気持ちが強ければ勝つんだということを今日は見せてもらい、共感したものがありました。私もやる気になっています」 元WBA世界Sフェザー級王者、内山高志(35、ワタナベ)はV12戦で敗れた。内山も山中と同様、記録を意識する発言を一度も口にしたことはなかったが、記録が途切れ、「勝っている間は、防衛回数など考えたこともなかったが、途切れてみるともったいなかったと思う。勝ち続けることで緊張感を保ち続けるのは、簡単なことではなかった」と、いかに具志堅氏が作ったV13が偉大な記録であるか、を語っていた。 具志堅氏は、V13達成時に24歳だったが、山中は34歳。試合を積み重ねる度に肉体は大切な時間を削り取られていく。そして記録が近づくことに増すプレッシャー。今回、山中は、決してレベルの高くなかった挑戦者のパンチを何度も“被弾”し、そしてなにより、5度のダウンは派手だったが、反面、いくらタフと言えど、いつものように“神の左”の一撃で仕留めることができなかったという現実もある。 試合後、メキシコの挑戦者は、「パワフルで経験値が違った。左ストレートは強く、クリンチもさせてもらえなかった。でも力の差はそれほどでもなかった。世界のビッグボクサーとは感じなかった。そこらへんの同じボクサーだった。経験が勝っていただけ」と、強がりを言った。 もちろん話半分に聞く必要はあるが、この日の山中の“神の左”は、いつもの威力とは違った。さらに“打たれる”というミスも目立った。“被弾”については、アンセルモ・モレノ戦、リボリオ・ソリス戦でも見られたことだが、カールソンとはレベルが違う。ポジションニングなのか、反応なのか。カールソンレベルの反撃をフィニッシュの途中で受けたことが問題なのである。 今回は試合前の調整段階から不調が伝わっていたが、モチベーションも含めたコンディション作りの失敗なのか、それとも本格派投手が150キロのストレートをいつまでも投げ続けることができないように年齢からくる衰えなのか。派手なKO劇の裏には見過ごせない不安も見え隠れしていた。 「完璧な左ではなかった。モチベーションを作るのか難しかったのかもしれないね。内山もそうだけど、山中もチャンピオンになったのが遅かったので、老けたなとも思うしね(笑)」 本田会長も、冗談交じりに、そう感想を語った。