TKOでV12も山中慎介の“神の左”に不安? 具志堅記録に並ぶ次戦は試練か
WBC世界バンタム級王者、山中慎介(34、帝拳)が2日、両国国技館で同級6位のカルロス・カールソン(26、メキシコ)との12度目の防衛戦に望み、計5度のダウンを奪う展開で7回57秒にTKO勝利。元WBA世界ライトフライ級王者、具志堅用高氏が持つ13度の連続最多防衛記録に王手をかけた。12度防衛は、元WBA世界Sフェザー級王者、内山高志(37、ワタナベ)を抜いて歴代2位の記録だが、本来一発で仕留めるはずの“神の左”に見られた不安点と、“被弾する”ディフェンスのミスを経験でカバーする戦いとなった。 リングサイドで観戦した女子レスリングの五輪3連覇、リオ五輪銀の吉田沙保里さんは「具志堅さんの記録を超えて!」と、秋に予定されているV13戦へエールを送ったが、V13戦の対戦相手には、22戦無敗で14KOを誇るメキシコ最強挑戦者、ルイス・ネリー(21)が有力視されていて37年ぶりに日本記録に並ぶ一戦は試練のリングとなりそうだ。
力の差は歴然だった。 世界初挑戦となるメキシカンは、前には出てくるが、怖いパンチも嫌らしいテクニックも持ち合わせてはいなかった。2ラウンドには、山中の左を浴びて、その左目は瞬時に腫れ上がって塞がった。もうフィニッシュは時間の問題に見えたが、山中の“神の左”と評される左ストレートに狂いが生じていた。カールソンの前進に戸惑いもあったのだろうが、上半身と下半身のバランスが悪くパンチが流れるケースが目立ったのである。 「序盤、体が浮ついてパンチに体重が乗っていないのがわかった」 3ラウンドには、左のボディを効かしてカールソンは腰を折り曲げたが、詰めることができない。4ラウンドに右ジャブを散らしておき、5ラウンドにカウンターの左でひとつめのダウン。立ち上がったカールソンをロープにつめて2度目のダウンを奪ったが、「メキシコ人の魂がそうさせた」と、ゾンビのように蘇った挑戦者に、逆に不用意な左のカウンターを浴び、クリンチからの離れ際にも右をもらい、まさかの形勢逆転。クリンチで、なんとか逆襲から逃げ切るという緊急事態に陥ってしまったのである。 だが、山中は「それは想定内だった」と反撃の嵐の中で冷静に“神の左”を修正していく。 「セコンドから、ジャブからという指示があり、やっとリズムが出てきた。徐々に修正していけた。それには経験があったと思う」 これが11度防衛で身に着けた「経験」という名の強さなのだろう。 6ラウンドにも、カールソンを左ストレートのダブルでキャンバスに這わせると、7ラウンドには、右から左ストレートのコンビネーションで、この試合4度目のダウン。「負けるわけにいかなかった」というカールソンは、また立ち上がってテンカウントを聞くことを激しく拒否した。 だが、山中は、もう容赦なかった。コーナーに貼り付け、狙いすました左で、カールソンがストンと腰を落とすと、レフェリーはもうカウントすることなくTKOを宣言した。 「右が良かったから左につながったと思う」 リングサイド。この日の前座カードで、夏に予定されているIBF世界Sバンタム級王者、小国以載(角海老)との世界戦に向けての前哨戦をKOで飾った岩佐亮佑(セレス)が言う。 「あのときの山中さんに比べて、経験と駆け引き。間違いなく、凄いレベルになっている」 岩佐は、2011年3月、山中と日本バンタム級タイトル戦で拳を交えて11回TKO負けしていた。今なお、日本タイトル戦の歴代最高試合のひとつに数えられる名勝負だったが、その8か月後に、山中はクリスチャン・エスキベル(メキシコ)を倒してWBCの緑の世界ベルトを腰に巻き、以来6年間、タイトルを守り続けてきたのである。