土屋太鳳、佐久間大介、金子ノブアキ出演「マッチング」「あのパターンね」からの「はああっ!?」 気持ちよく騙された! 小説も書いた監督がそれぞれに込めた思いとは
■映像で伝わるもの、小説で伝わるもの
ストーリーは映画と小説は同じだが小説の方が情報量が多い──だったら小説だけでいいのでは? いや違う。実は映画の方が別の意味で「情報量が多い」ことに、私は映画を見たあとで気付かされたのだ。そして内田監督という人は、やはり映像の人なのだよなあと思ったのである。 小説を読んでいるとき、違和感があった。たとえば小説には季節描写がほとんど登場しない。「秋雨」「秋晴れ」とあるので秋なのはわかるが、それが伝わるような情景や小道具が出てこないのだ。あるいは街並みであったり、家の中の様子であったりというのも具体的には描かれない。 これは決して批判しているのではないので誤解なきよう。映像を撮るなら絶対必要になるこれらの風景描写を、監督が考えていないはずがないのだから。ここからは想像になるが、監督はそういった景色は映像で見せられるから、小説では映像で表現できない個々の内面により紙幅を割きたかったのではないか。実際、それらの情景描写がなくても物語のサプライズには関係ないわけだし。 だから映画を見て初めて、物語の全景が見えたような気がしたのである。森ってこういうのか。××ってこんな場所なのか。吐夢の「ぺたりと張り付いたような笑顔」とはこういうのかとも腑に落ちたし、何より屋上での輪花と吐夢の場面の(それまでの展開を考えればあり得ないような)一瞬の爽やかさときたら! こんな爽やかな場面だとは映像を見るまで思ってなかったよ。 というわけでぜひとも両方を見比べ、読み比べていただきたい。特に映画のラストはほぼセリフなしで真相が提示されるが、小説ではきっちり言葉で説明されている(動機もちゃんと説明される)ので、どちらが好みか考えてみるのも楽しい。 いやそれにしても──気持ち悪いさっくん最高、である。アイドルなのに。土屋太鳳さん演じる輪花の挫折や苦しみを経た再生がこの物語の主筋ではあるが、さっくん演じる吐夢の得体の知れなさにすっかり持っていかれた。悪い人なの? ほんとはいい人なの? どっちにしろ気持ち悪いんだけども、と、コロコロ転がされたよ。太鳳ちゃんとさっくんのみならず、途中で大きくイメージの変わる登場人物は他にも複数いるので、出演俳優のファンの人は推しの多面性をたっぷり味わえるぞ! あと、誰とは言わないけど、子役が大人の役者さんにそっくりで驚いた。子役がネタバレ、というレベルで似てた。よく探してきたなあ! 大矢博子 書評家。著書に『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』(東京創元社)、『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)、『読み出したらとまらない! 女子ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)など。名古屋を拠点にラジオでのブックナビゲーターや読書会主催などの活動もしている。 Book Bang編集部 新潮社
新潮社