「も」も繰り返せば―つくる冒険で知るアートの楽しさ 滋賀県立美術館で6月23日まで
大津市の滋賀県立美術館で行われている「つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人-たとえば、『も』を何百回と書く。」は、アートを見る楽しさを教えてくれる展覧会だ。 アール・ブリュットは日本語では「生の芸術」と訳される。会場に並んでいるのは精神障害者や知的障害者らの作品。担当学芸員の山田創さんは「大多数は自らをアーティストや美術家とは思ってはいない。作り出したものを作品とも思ってなかったのではないか」という。だからこそ、そのエネルギーが見る者を圧倒するのかもしれない。 展覧会は5つの章で構成されている。「色と形」を巡る最初の章では、八重樫道代の描いた「チャグチャグ馬コ」の強烈な色彩が印象に残る。「繰り返し」の第2章は、タイトルにもある齋藤裕一の「ドラえもん」。「も」を繰り返し書くことで、文字の集合体がアートとなっている。地味な反復作業が、とてつもないものを生み出すという好例であろう。 第3章は作家たちの制作風景を映した映像作品。第4章は「社会」への関心を扱い、飛行機や電車、バスといった乗り物に影響を受けた作品が目立っている。社会にコミットしたいという彼らの意識から生まれた作品群だ。 最後の章は作り手の心の中をのぞけるような作品、例えば記憶をたどって映画「東京オリンピック」のポスターを描いた木伏大助の「無題(東京オリンピック)」などは、その確かさに驚嘆させられるに違いない。 今回の45人の作品は2010年にパリの美術館で行われた「アール・ブリュット・ジャポネ」展に出品された後、日本財団が所蔵していたもので昨年、アール・ブリュットを収集方針に掲げる国内唯一の美術館、滋賀県美に寄贈(寄託を含む)された。 開館40周年を迎えた世界有数のアール・ブリュットコレクション(731件)を有する美術館で、「生の美術」を存分に味わいたい。(正木利和) ◇23日まで(月曜休館)。一般950円ほか。問い合わせ077-543-2111。