【2024ふくしま衆院選 託す思い】廃炉・復興 帰還へ十分な予算を 古里の基盤づくり急務
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から13年7カ月が経過したが、本県の復興は道半ばだ。福島第1原発では処理水の海洋放出が続き、溶融核燃料(デブリ)の取り出しでは機器の不具合などが相次ぐ中で衆院選を迎えた。県内の有権者は廃炉の完遂や古里の再生、風評払拭につながる政策に関心を寄せている。 富岡町の土地家屋調査士・行政書士坂本和久さん(70)は9月下旬、原発事故発生後初めて福島第1原発を視察した。作業を間近で見て、廃炉の道のりの険しさを再認識した。 特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除を機に昨春、町内の施設から古里・夜の森に事務所を戻した。人通りから復興の息吹を感じる一方、居住人口は約2500人と震災前の約6分の1にとどまる。 各党の公約には廃炉に向けた取り組みや、来年度で終わる第2期復興・創生期間後の予算確保が盛り込まれている。ただ、政策の詳細や主張の違いは選挙期間中の訴えから感じ取るほかない。「帰還や移住の促進に廃炉は欠かせない。きっちりと予算をつけてほしい」と願う。
双葉町新山地区の会社役員勝山広幸さん(55)は除染で出た土壌の県外最終処分や再生利用に向け、具体的な道筋を求める。除染土を一時保管する中間貯蔵施設の用地に自宅を提供した。埼玉県加須市から事業の行方を注視しているが、遅々として進まない現状がもどかしい。 国が定めた県外最終処分の法的期限2045年3月まで20年余りだが、難事業なだけに「もう時間がない」と気をもむ。「一刻も早く議論を加速させる姿勢を示してほしい」と各党、各候補者に注文した。 ◇ ◇ 復興関連の政策では被災者の生活・なりわいの再建に触れる政党もある。会津若松市に避難する大熊町の斉藤久美子さん(55)は古里の基盤づくりが急務と考える。自宅は居住可能な復興拠点にあるものの、就労先や病院、商業施設などは限られ「生活環境が整うまでは戻れない」とこぼす。 会津若松市門田町の災害公営住宅の住民らでつくるサロン「ひまわり広場」の代表を務める。住民同士の交流企画などを通じ、地域の絆づくりに努める。「震災前のように安心して暮らしたい。帰還できるように力を尽くして」と訴えた。
◇ ◇ インバウンド(訪日客)の誘客や県産品の需要を左右する風評対策の徹底は全県共通の願いだ。高湯温泉観光協会長の遠藤淳一さん(69)=吾妻屋=は各党の観光施策に目を凝らす。 高湯温泉の近年の宿泊・日帰り客は年間17万~18万人で推移しており、震災と原発事故前の年間約20万人には届いていない。秋の行楽期を迎えて日々、多忙に過ごす。処理水放出などの問題が尾を引いてか県外の観光地と比べ、訪日客の入り込みが弱いと感じる。処理水放出が始まったころは中国からの迷惑電話に頭を悩ませた。「根気強く正しい情報を発信し、福島の観光を盛り上げる手だてを打ってもらいたい」と語った。