JPサックス、親密なムードで歌を届けたビルボードライブ初来日公演
2019年のリリース以来、全世界で13億回以上再生されてきた大ヒット曲「If the World Was Ending」(feat. Julia Michaels)でグラミー賞ノミネート歴をもつカナダ出身のシンガーソングライター、JPサックスが初来日。東京と大阪のビルボードライブで、それぞれ2回ずつ公演を行った。 【写真ギャラリー】JPサックス ライブ写真(全9点) 筆者が足を運んだのは、5月27日(月)の東京公演、2ndステージ。ネオン煌めく六本木の夜景を背景に、ステージには2本のアコースティックギターと電子ピアノが置かれている。21時きっかりにスタートすると、JPはピアノの前に座って、昨年9月に発表された2ndアルバム『A Grey Area』のラストソング「If Love Ends」を静かに歌い始めた。アルバムの中心テーマである別離についての楽曲が、丁寧に情感を込めて綴られていく。続いた「All My Shit Is In My Car」も砕けた調子だが、真摯に心を込めて歌われる。基本的には、彼ひとりがピアノとギターを持ち替えながら歌うソロライブ。先日行った彼とのインタビューでも語っていたように、「初めて演奏する都市では、ひとりで演奏する」というスタイルに則ったステージを展開した。 ひと息ついて「今日が初めての日本でのライブです」と改めて挨拶したあと、「昨夜は嬉しくて日本酒を飲みすぎちゃって。ちょっと羽目を外しすぎたので反省しています」と言って笑わせる。数曲毎に付けてくれる曲解説も、早口だが丁寧で、捻くれたユーモアが混ぜ込まれる。場を和ませようという気遣いが窺える。新作『A Grey Area』のオープニング曲「Old Times Sake」(Epigraph by Yesika Salgado)を演奏する際には「詩集が大好きなので、アルバムの巻頭に取集のような題辞を付けたかった」と教えてくれたり、演奏後に拍手までの間が空くと「拍手って、始めるタイミングが難しいよね」と言ってフォローする。 ジョン・メイヤーとの共作曲「I Don’t Miss You」、「Like That」などは、もちろん彼の人生体験を基に作られている曲だが、リラックスしたムードの中、ストーリーテラーがショートストーリーを語っているかのようだ。時にロマンチックだったり、時にシリアスだったり。多くは悲しみに彩られている。すぐ側にいる友人に語りかけているかのように歌われる。かと思えば、「Tension」のように、それこそテンションがピリピリと張り詰めて、今そこで恋人と言い争っているかのように言葉が放たれる。やや劇画風な一面も。 直近の欧米ツアーではドラマーを率いていたが、今回のツアーはワンマンなので、「Who You Thought I’d Be」では、ツアーマネージャーがギターで参加。2人によるアコギ演奏をバックにして歌われた。全体的にはフォーク色が濃厚だが、曲によってはジャズやゴスペル、ロック、ソウル、キャバレーミュージックなどの要素も窺える。 終盤には観客からのリクエストに応えて数曲を披露。その内の1曲、ジョン・メイヤーとの共演曲「Here’s Hopin’ 」では、「今夜はジョンはいないけど、背の高いアメリカ人が背後で演奏していると想像しながら聴いてください」と冗談を言い、「初めての日本公演だから“Gettin’ over you”じゃなくて、“Gettin’ Knowing me”って歌うね」とサビの歌詞を変更する。「Dangerous Levels of Introspection」の前には、「ギターとピアノと、みんなどっちで聴きたい?」と尋ねるなど(ピアノ演奏に即決した)、ステージ上で歌っているというよりも、友人の集まるコーヒーハウスで歌っているかのような印象だ。 和気藹々と進行したライブは、最後の2曲でやや趣を変えて、アクロバティックな歌唱も披露された。「A Little Bit Yours」では、スタジオ版以上に感情を迸らせ腹の底から激しく声を張り上げた。またラストはもちろん名曲「If Tthe World Was Ending」で締め括られたが、呟きからシャウトへとドラマチックに激変する歌唱を聴かせてくれた。決して押し付けがましさを感じさせることなく、JPサックスのストーリーテリングに引き込まれていった、そんな素朴で真摯な85分間だった。
Hisashi Murakami