阪神・藤川新監督「自分らしさを忘れずに」 監督になっても変わらない入団時の思い
阪神の第36代監督に藤川球児氏(44)が就任した。そんな藤川新監督の素顔を紹介する。 ◇ ◇ 1998年12月。入団会見の囲み取材が終わった後、紙面掲載用にプロでの目標、抱負を色紙に書いてほしいとお願いした。学生服に身を包んだドラフト1位は少し考えを巡らせた後、「これでも大丈夫ですか」と言って、大きく、しっかりとした文字でこう書き記してくれた。 「自分らしさを忘れずに」 新人王や開幕1軍、沢村賞。具体的な目標を書く新人選手が多い中で、プロに入っても変わらずに、自分らしく歩いていきたい、という18歳の決意表明はとても新鮮だった。「すごくいいと思うよ」と伝えると、球児はニコッと笑った。 ドラフト指名の前後によく取材をさせてもらった。 常に前向きで、真っすぐで。野球選手としてどうありたいかよりも、まず人としてこうありたい、という強い思いを随所で感じた。色紙に記した言葉は今振り返っても、人となりがよく表れているように思う。 元広島投手の津田恒実さんとの「縁」も印象深い。 高知商2年の夏に兄・順一さんとの兄弟バッテリーで甲子園出場を果たした後、右肘の蓄積疲労に苦しみ、秋季四国大会1回戦で宇和島東に打ち込まれて完敗。「正直、野球を辞めようと思った」と、心が折れかけた。 そんなときに父から、津田さんの生涯が描かれた本を渡されたという。 真っすぐで強気に押す投球スタイルから「炎のストッパー」と呼ばれ、最後まで病と闘い続けたその姿に勇気をもらった。津田さんの座右の銘「弱気は最大の敵」を胸に刻み、再び野球に向かい会った。 「あの時、本当にあの本を読んで良かった。自分の中ですごく大きかった」と当時、教えてくれた。まさかその後に火の玉ストレートを投げ込み、津田さんのような熱きストッパーに成長を遂げるとは思いも寄らなかったが、投手としての「原点」をここに感じている。 先日行われた新監督就任会見。「真っすぐ、愚直に真心を込めて、このチームを預からせていただく」という言葉が心に刺さった。ずっと変わらない「自分らしさ」が最も、にじみ出ていたように思う。 (デイリースポーツ1998、99、2002、03、10年阪神担当・岡本浩孝)