東京に亡命した中国人たちが語る「日本の良さ」と「いまとは別の中国」─ますます政治的になりつつある彼らの「目標」
上海ですら「生活に適してない」
中国政府は、国外に移住した中国人の統計を公表していない。だが、国連の推算によれば、2022年に31万1000人が中国を離れたという。人気トップの移住先はいまも米国だが、裕福な中国人は、日本、カナダ、オーストラリアにも集まる。貧しい中国人が選ぶ移住先は、タイやマレーシアだ。 中国はもともと国外に移民を送り出す国だったが、2000年代の高度経済成長の時代は、国外移住を選ぶ人の数が減っていた。それが再び増加に転じたのが2018年だった。中国当局による社会の管理がきつくなったのが要因の一つだった。 共産主義体制に順応してきた中国人にさえ、近年の権力の硬直化は目に余るものだった。2022年から東京で暮らす上海出身のカイシュエン(仮名、29)は、「東京在住の中国人の大半は、自分と同じで政治運動に関心がない」と言う。 オーストラリアのメルボルンに留学した彼女は、中国に帰国した後、TikTokを運営する中国企業バイトダンスに就職した。給料はよく、スピード出世できるチャンスもあった。だが、すべてが新型コロナウイルス感染症のせいで一変した。 「さすがに上海ほどの都市では、住民の自由は守られるだろうと上流階級の人はたかをくくっていたんです。でも、ロックダウンがあって、私の両親も『ここは生活に適していない』と言い出しました。国外に脱出するか、あるいは緊急時に使える脱出口を確保しておくべきだという意味です」 カイシュエンの仕事も政治の影響を受けた。 「アニメと漫画が専門のプラットフォームで仕事をしていたのですが、規則がどんどん厳しくなりました」 検閲のせいで独創的なプロジェクトの数々がお蔵入りになり、出世できるチャンスもしぼんでいった。カイシュエンは、日系企業の中国支社に転職し、その後、その会社で日本への転勤を願い出た。 「日本でもらえる給料は、バイトダンスの頃の半分ほどですが、いつクビになるかわからない不安とは無縁でいられます。そこが中国に残った友人たちとは異なるところです。いま、中国のインターネット業界は修羅場ですからね」 2021年のデジタル・プラットフォーム事業者に対する規制強化は、中国のインターネット業界にとって手痛いものとなった。アリババのCEOだったあのジャック・マーも、その率直なもの言いがあだとなり、当局に目をつけられて、中国を離れざるをえなくなった。時代の寵児だった経営者が、中国、日本、アジアの国々を行き来しながら目立たないように生活をしているという。 カイシュエンにとって、移住先に東京を選ぶのは当たり前だった。「上海から2時間で行けて、時差も1時間しかないですから」(続く) 彼ら中国人にとって、日本への移住は距離や安定した職場環境以外にもさまざまなメリットがある。第2回では、東京での暮らしぶりと、彼らが経験したここ数年の「中国の急変」について聞いた。
Simon Leplâtre