佐世保市・宇久島「日本最大のメガソーラー事業」を巡って大モメ…断固反対する「漁協のドン」の正体
遅れに遅れた太陽光事業
長崎県五島列島の最北端に位置する宇久島に、年間発電量51・5万キロワットの大規模メガソーラー(大規模太陽光発電)を建設する事業がいよいよ本格的に動き出す。 【写真】メガソーラー事業の工事が着工している宇久島の現状 既に現地では、樹木の伐採や除草、防災工事や宿舎建設、電力の交流直流交換所などの準備工事が始まっているが、10日以降、島西南部の飯良地区から太陽光パネル敷設のための架台の設置作業に入る。 事業内容は、島の面積(約2493ヘクタール)のおよそ10分の1の約280ヘクタールに約150万枚の太陽光パネルを敷き詰めるというもの。2025年度の売電開始を目指すが、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の初期に売電権を得たために、買取価格は1キロワット時40円で売電収入は年間約200億円にのぼる。 事業を推進するのは宇久島未来エネルギー合同会社で、九州電力の関係会社である九電工、太陽光パネルを供給する京セラなどが出資する。日本最大のメガソーラーとなるだけに事業規模は約2000億円。それなりの信用と資金力が求められたということだ。 だが事業は遅れに遅れた。権利取り業者が蠢く初期の太陽光発電特有の問題、規模に相応しく関係者が多いことによる権利調整の難しさ、過疎化が進む島の命運を決める事業だけに賛成と反対が拮抗する地元事情、などが理由だ。 しかも本格着工してなお、未解決問題がある。経緯を振り返ってみよう。
既得権として残った買取価格
FITが始まったのは12年7月で、東日本大震災の被害を受けて創設されただけに、買取価格を高く設定して再生エネルギーの普及を図ることが第一義とされた。太陽光の1キロワット時40円はそういう設定で、「誰がやっても間違いなく儲かる」(太陽光業者)という水準だった。 そこで横行したのは権利取り業者である。事業化の当てがなく、資金もないようなブローカーが殺到し、ろくに地主の承諾も得ないまま売電権(ID)を取得した。宇久島もそうで、IDを取得したドイツのフォトボルト・デベロップメント・パートナーズは、自民党元代議士、佐世保市会議員、宇久島出身の不動産業者などに丸投げ、トラブル続出でIDを九電工に売却して撤退した。 2010年代にはこんな権利取り業者が多く、結果としての事件化が絶えない。国際政治学者、三浦瑠麗氏の夫(現在は離婚)の三浦清志被告が逮捕されたのも太陽光プロジェクト絡みだった。 “傷物”となった宇久島案件だが、最大のメリットは1キロワット時40円の権利を持つことだった。高値買取を補填するのは国民であり「再エネ賦課金」を負担する。この金額は電力需給によって変化するが、22年度の総額は約2・7兆円、23年度で約1・1兆円である。 標準世帯で22年度は月1380円、23年度は月560円。この賦課金を下げるために経産省は買取価格の引き下げに入り、40円は36円、32円と切り下がり、宇久島みらいエネルギー合同が立ち上がる頃には18円となっていた。しかし40円は既得権として残った。 このメリットを生かすべく、事業会社は九電との接続契約、林地開発や農地転用の許可を得て、19年6月には佐世保市内と宇久島に現地事務所を設置し準備を整えた。