<ラグビー>サンウルブスの歴史的1勝の理由
終盤まで接戦。会場のボルテージは上がる。電光掲示板にある「MAKE SOME NOIZE」に、公式発表で1万4940人のファンが応じる。時折、声を揃えて狼の鳴き声をまねていた。ホームチームの名前は、太陽(サン)と狼(ウルフ)をもじったサンウルブズである。 試合終了間際。そのサンウルブズは、敵陣ゴール前左中間でスクラムを獲得する。大男同士がぶつかり合う。対するジャガーズの押し込みに耐え、足元のボールをかき出す。 パスをもらったのは、スタンドオフのトゥシ・ピシ。再三のチャンスメークで光った攻撃の柱が、左へ流れる。左から右へ突っ込むセンターのデレック・カーペンターと交差しながら、一転、体勢を変える。縦突破。 相手のタックルを腰元へ受けても、簡単には倒れない。サポートに寄ったのは、センターの立川理道だった。トライ。ゴールも成功した。38-26。ノーサイド。マーク・ハメットヘッドコーチはスタンド上段のコーチャーズボックスで、堀江翔太主将は緑濃き芝の上で、目を、濡らした。 2016年4月23日、東京は秩父宮ラグビー場。スーパーラグビーの第9節があり、サンウルブズが今季初勝利を挙げた。スーパーラグビーは、従来までニュージーランド、南アフリカ、オーストラリアという強豪国のプロクラブ同士がぶつかっていた舞台である。そこへ2016年度から参入した北半球唯一のチームが、歴史的な白星を挙げたのである。前節では、敵地ブルームフォンティンのフリーステイト・スタジアムでチーターズに17―92と大敗していた。それだけに、観る者の驚きと感動はひとしおだ。間もなく38歳とチーム最年長のロック、大野均は言った。 「歴史のないチームの1勝…。先週、大敗して、きょうはもう善戦さえできたら…という気持ちで来てくれたお客さんがいたかもしれないなか、いい意味で期待を裏切れた。また、我々がいい意味で期待を裏切れるチームだと、スーパーラグビー全体に見せることができた」 相手のジャガーズも新参者だったが、昨秋のワールドカップイングランド大会で4強入りしたアルゼンチン代表とリンクしている。来日時の戦績は1勝6敗も、開幕前は上位進出が期待されていた。特にフォワードが8対8で組み合うスクラムには自信を持っていた。 もっともサンウルブズは、直近の大敗を糧にした。