小さな時計がもっともビッグだ──カルティエ、オーデマ ピゲ、IWC、パネライほか
小ぶりなミニ・ウォッチが注目を集めるようになり、時計コレクターはこのサイズに熱狂するようになった。 【写真を見る】文字盤を拡大チェック!
トレンドはカルティエから始まった
少し前の2000年代、理想の時計はオレオクッキーのような大きさであり、40mmより小さい時計は女性向けとみなされていた。しかしこの5年で、ウォッチコレクターたちは35mmサイズのヴィンテージを再発見し、時計業界もそれに応えるようになった。ミニ・ウォッチの時代がやってきたのである。今日の時計業界で多く見られるように、トレンドはカルティエから始まった。昨年、バスタブ形ケースを持つモデルの小径版となるベニュワールを発表したのである。 サイズは1ペニー硬貨にほぼ同じ、約19×25mm。市場に登場すると、今までならスティール製スポーツウォッチだけが示す「パフォーマンス」を見せることになった。このベニュワールはすぐに売り切れ、長いウェイティングリストができ、そしてミニ・ウォッチの大きなトレンドが生まれたのである。 今やスイスのあらゆるブランドが“小ささ”を目指すようになった。今年、カルティエはタンク ルイ カルティエとタンク アメリカンの“ひと口サイズ”を発表し、大ぶりな時計で知られるウブロもクラシック・フュージョンオリジナルに可憐なサイズを加えたのである。オーデマ ピゲも、フラッグシップであるロイヤルオークを23mmという極小サイズにしている。 新しいミニ・ウォッチは、新しい言語を持っている。複数のブレスレットや時計との重ね着けのように、ジュエリーとして身に着けることが想定されているのだ。メンズセレクトショップ「アーモリー」の共同設立者であるマーク・チョー。新しいベニュワールを気に入った彼はフェイスを内側に回転させたブレスレットとして着け始めた。これだけの可能性があるのだから、私たちはミニというラベルを捨てて、ファンサイズと呼ぶべきだろう。
一方で、ビッグ・ウォッチは相変わらずビッグだ
特大フェイスをあきらめるのはまだ早い。一部の時計好きにとって、大きいことは良いことなのだ。 2021年4月、私はパネライの愛用者たちによるバーチャルミーティング「パネリスティ」に初めて参加した。パネライ好きが集うこのイベントでは、しばしばサイズも話題にのぼる。伝統あるダイビングウォッチのブランドにふさわしく、ある参加者はボートから電話で参加し、時計のサイズに関する見識を披露した。「42mmは男性用とされていますが、今後少し小さくなっていくと思いますね」と彼は言った。 多くの愛好家がミニ・ウォッチに惹かれる一方で、42mm以上のサイズにこだわる愛好家もいる。著名な時計クラブ「レッドバーグループ」の創設者であるアダム・クラニオテスは、42mmこそが個人的なスイートスポットであり、時計のあるべき姿であると信じているのだ。 「IWCのビッグ・パイロット・ウォッチは、その名前からして大きいでしょう」と彼は言う。「こういった時計を身に着けることで、私たちは可能な限り堅牢な時計を求めるパイロットやダイバーの“コスプレ”ができるのです」 今やミニ・ウォッチがブームになりつつあるが、少し前までは多くのブランドがビッグ・ウォッチを追い求めていた。たとえばオーデマ ピゲは、1990年代にオフショアで、ロイヤル オークのサイズアップに成功したのである。 ビッグサイズの時計は、今のトレンドではないかもしれない。しかしクラニオテスのような愛好家たちは、振り子がまた戻ってくることを知っている。 彼は大きな時計こそが今日の時計に求められる目的をよく果たしている、と主張する。 「時計のサイズとは、腕上での存在感と密接に関係するものです。率直に言うと、その存在感こそが多くの人々が腕時計を選ぶ理由なのです」 WORDS BY CAM WOLF TRANSLATION BY MASAYUKI HIROTA