モスクワのテロは「イスラム国」復活の狼煙? 活発化していた近年の活動「実態」に、脅威インテルで迫る
<モスクワ近郊での銃撃テロの前から、イスラム国はイランでテロを実行するなど、サイバー空間で力を蓄えて危険度を増してきた>【クマル・リテシュ(英MI6元幹部、サイバーセキュリティ会社CYFIRMA創設者)】
2013年頃から、その残忍性を喧伝することで世界を震撼させた過激派組織IS(イスラム国)。一度は欧米によるテロ対策で衰退したISだが、最近またその活動が目立つようになっている。 【動画】ISの奴隷にされた援助ワーカーの女性ミュラー 2024年3月22日、モスクワ近郊のコンサート会場で銃撃テロが発生した。60人以上が犠牲になったが、実はロシアの米大使館が先日、首都モスクワでイスラム国によるテロの脅威が高まっていると声明を発表したところだった。 これ以外でも、イスラム国はイランで2024年1月、2020年にアメリカによって暗殺されたイラン革命防衛隊の精鋭コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官を追悼するイベントで、爆破テロを実施して100人以上が死亡している。 そして、こうしたテロ組織は昨今、現実社会だけでなく、サイバー空間でも蠢いている。 筆者が率いるサイバーセキュリティ企業サイファーマでは、サイバー犯罪者や政府系ハッキング機関だけでなく、イスラム国のようなテロ組織のサイバー空間における動きも、脅威インテリジェンス的なアプローチで広く調査している。実は、ハクティビストやテロ関連組織などが、サイバー空間で企業などへの攻撃を行ってくることもあるため、そうした攻撃への対応も意識しておく必要があることを忘れてはいけない。 ■Telegramを利用して協力者や資金を集める 今回モスクワ郊外で大規模なテロを行ったISのサイバー空間上での活動を探ってみると、イラクやシリアで拠点を失ったイスラム国はこれまで、暗号化通信ができるTelegram上で活動を続けてきたことがわかる。今回のテロの犯行声明を出したのも、Telegramのアカウントだった。 さらにTelegramを利用して、取り込みやすいユーザーを探して過激化させようとしている。私たちは、脅威インテリジェンスで難民キャンプのイスラム教徒や難民、囚人などに対する扱いが話題になっているようなチャンネルを数多く検知している。 例えば「WhispersOfTheForgotten」(忘れられた人たちの囁き)というチャンネルでは、イスラム寄りの過激コンテンツにユーザーを誘導する活動をしている。「Letters from Inside」というチャンネルでは、シリアのアルハウル難民キャンプに暮らす女性や子どもたちが被害者になったとする「虐殺行為」について喧伝し、キャンプ内の特定の子どもなどについて「命を救うには医療的な助けが必要である」などとメッセージを広め、寄付を要求している。そうして活動資金を集めているのである。これら2つのチェンネルはお互いの投稿をシェアし合うこともある。 また「The Travelers'」(旅人たち)というチェンネルもISの考えを広めるようなチャンネルになっており、シリアのイスラム教徒が受ける残虐行為を話題にすることが多い。そうして、同情者を集めようとしている。しかもサイバー空間には国境がなく、世界中にいるいろいろな能力をもったイスラム教徒などがそこに感化されていく。ハッカーが参加すれば、サイバー攻撃を使ったテロ行為も実施される可能性がある。