世界で高まる核兵器のリスクへの強い警鐘といえよう。 　今年のノーベル平和賞が、全国の被爆者らでつくる日本原水爆被害者団体協議会（被団協）に贈られることが決まった。 　「核兵器のない世界の実現に向け努力し、核兵器が二度と使われてはならないことを証言を通じて示してきた」と評価された。 　原爆投下から79年。被爆者たちは身をもって悲惨さを訴え続け、反核運動を先導してきた。 　願いに反し、世界の紛争と対立で核の脅威が増す中、唯一の戦争被爆国として、核廃絶への国際協力を広げる役割の大きさを改めて分かち合いたい。 　授賞理由は、被団協をはじめ被爆者の並外れた努力が、「核兵器使用は道徳的に認められないという力強い国際規範『核のタブー』の確立に大きく貢献した」と強調した。このタブーがいま、「圧力にさらされている」と強い危機感を表した。 　ロシアはウクライナ侵攻で核の脅しを繰り返し、中東でもイスラエルの閣僚が核使用に言及した。米ロも小型化などで「使える核」への近代化を進めていることが念頭にあろう。 　核問題での平和賞は、2017年の非政府組織「核兵器廃絶国際キャンペーン（ICAN）」に続く。改めて、核被害の非人道性を体現する被爆者に焦点を当てることで、80年近く核使用を阻んできたタブーを決壊から守り、再強化する重要性を呼びかけたといえるだろう。 　「ノーモア・ヒバクシャ」を訴え続けた歩みに思いを寄せたい。被団協は1956年結成。被爆後11年も国の救済なく健康被害と差別に苦しむ中、「自らと人類の危機を救おう」と国家賠償と核廃絶を求めた。 　国内外で被爆の実相を証言し、国連や平和会議でも自らの傷痕や写真パネルを示しての告発は、核の恐ろしさを印象付けた。訴え広げた反核世論が、2017年の核兵器禁止条約の採択につながり、批准は73カ国・地域に増えている。 　一方、核軍縮条約・交渉は停滞や後退が続き、保有国と同盟国は核への依存を深めている。 　日本政府は中国や北朝鮮に対抗し、米国が核を含む戦力で列島防衛に関わる「拡大抑止」を強める姿勢だ。さらに石破茂首相が就任直前の寄稿論文で、「核共有の検討」に言及した認識に疑念を禁じ得ない。 　石破氏は、被団協に祝意を示す一方で「現実的対応が必要」と核抑止に頼る。だが、核軍拡競争を再燃させ、一歩間違えば破滅する状況は現実的なのか。 　被爆者とともに核なき世界を希求するなら、日本が核禁条約に背を向け続けてはならない。オブザーバーからでも参加へ踏み出し、被爆国の体験と知見を役立てることが責務である。 　高齢化する被爆者たちの証言と活動を、若い世代へ引き継ぐ取り組みにも一層注力したい。