パリに平和をもたらした『イマジン』、日本を熱くした『飛行艇』と『第ゼロ感』。スポーツを音で演出するスポーツDJ
パリへの切符をつかんだ沖縄『第ゼロ感』とカチャーシー
もう一つ、世間でも大きな話題になったスポーツと音楽にまつわるシーンの陰に、DJ KAnaMEが立ち会ったことがあった。 2023年夏に行われたフィリピン、インドネシアと共催ながら、こちらも自国開催のバスケットボール・ワールドカップ。フィンランド、ベネズエラ、カーボベルデに勝利した日本代表が、48年ぶりの自力でのオリンピック出場権を勝ち取ったその瞬間の出来事だ。 沖縄アリーナで行われたカーボベルデ戦に勝利した日本は、見事にパリへのキップをゲット。歓喜に沸くアリーナに、映画『THE FIRST SLAM DUNK』の主題歌、10-FEETの『第ゼロ感』が流れ、フロアに立つAKATSUKI JAPAN の面々をよりドラマチックに引き立たせたのだ。曲中のコーラス部分、「Whoa,Whoa」は観客の大合唱で、さながらライブ会場のコールアンドレスポンスのよう。これには『SLAM DUNK』人気、バスケ人気ともに高い中国メディアから羨望の声が挙がるなど、日本が世界に誇るコンテンツであるマンガ、アニメと現実がつながった瞬間として多方面から評価された。 「実はあの時、『第ゼロ感』の前に、琉球民謡の『唐船ドーイ』を流しているんです」 快挙の現場となった沖縄では、宴の締めくくりにテンポの速い三線の音に合わせてカチャーシーを踊る習慣がある。Bリーグの琉球ゴールデンキングスでは、これにならい、勝ち試合で必ず『唐船ドーイ』を流し、全員で踊って勝利を祝っている。その文脈にも則った上で、『第ゼロ感』が流れたからこその高揚感がスタジアムにはあったのだ。 「ボリュームを絞り目にしてフリーに踊ってもらう感じで『唐船ドーイ』を流していたところから、音が割れるくらい、上の人に怒られるんじゃないかというくらいの大音量で『第ゼロ感』につないだんです。試合が終わって選手たちがフロアで喜んでいるという状況でしたけど、そこからもう一回クライマックスが来た感じでした」 大音量で『第ゼロ感』を流しながら、コーラス部分では音を絞って観客の合唱を煽る演出は、現場を“わかっている”DJじゃないとできない心憎い工夫。日本ではスポーツ現場のDJの役割はまだまだ統一されたものではないが、DJ KAnaMEのような会場すべての音を総合的に演出するプロフェッショナルが増えれば、今後ますます増えるであろうプロリーグとクラブ、多競技ではなく多種多様なエンタメと可処分時間を競い合うスポーツにとって大きな助けになるはずだ。 <了>