パリに平和をもたらした『イマジン』、日本を熱くした『飛行艇』と『第ゼロ感』。スポーツを音で演出するスポーツDJ
存在感を増すスポーツ×音楽を加速させる「スポーツDJ」
オリンピックに限らずショーアップ、エンターテインメント化が進むスポーツ会場では、そこで流す曲や効果音、音響全般を引き受ける「スポーツDJ」の存在が欠かせなくなっている。 実は日本にも「スポーツDJ」を生業とするDJは存在する。東京2020オリンピック・パラリンピックで、ソフトボール、陸上、車いすバスケットボールなどを担当したDJ KAnaMEさんは、パリで『イマジン』が音楽の力を見せた一件についてこう話す。 「同じスポーツDJとしては、やられたなと思いました(笑)。あの場面で『イマジン』を選曲するセンスと瞬発力は、まさにスポーツDJの醍醐味です。同時にすごく悔しかったですね。前回の東京では無観客で、パリがうらやましいというのも本音です。自分だったらあの場面でどんな曲をかけたかな?と考えたりもしました」 一般的なクラブDJも客層や反応を見ながら曲を選び、その構成力でフロアを踊らせるが、スポーツDJには観客の他にメインである競技や試合、選手が即興で演じるプレーに即反応し、その時々にマッチする曲を選ぶ反射神経が求められる。今回のような“アクシデント”に曲でアンサーを返すのは、まさに当意即妙のスポーツDJの真骨頂というわけだ。
雨なら『晴れたらいいね』観客の気持ちに寄り添う選曲
「人にもよりますが、私は用意したセットリスト通りに曲をかけることはまずありません。晴れてるか、曇りなのか雨なのか、会場は屋内か屋外か、とりあえず会場に行って、その時の空気を肌で感じてから一曲目を決めます」 必然的に持参する曲は多くなる。クラブDJであれば大容量化したUSBメモリに曲を入れ、それをDJ機器につないでプレイするケースも少なくないが、スポーツDJの場合は、ノートパソコンを持ち込み、あらゆるシチュエーションに対応したライブラリの中から曲をセレクトする。 「決まった音、選手入場の音とかいつものウォーミングアップの曲、選手、チームの“定番”なんかは用意しますが、基本的にはその時のフィーリング、選手や試合の動きによって変えていきます」 屋外競技では、「残念なこと」とされがちな雨でも、DJの力量が生かされる。例えば、雨による中断の時、DREAMS COME TRUEの『晴れたらいいね』が流れてきたらどうだろう? DJ KAnaMEのライブラリには「雨」のフォルダがあり、『晴れたらいいね』やリアーナの『アンブレラ』など、雨を楽しく過ごすための曲が用意されている。雨の国際試合で『アンブレラ』をかけたときは、外国人が大盛り上がりで「ella,ella,eh,eh,eh」の大合唱が始まったそうだ。 「曲もABC順とかじゃなくて“rainy”とか“cloudy”とか“happy”とか、シチュエーションや感情に沿った分け方にしています」 ビーチバレー会場で『イマジン』を即興で流したDJのライブラリに『仲裁』や『仲直り』のフォルダがあったかどうかは定かではないが、「いかにもビーチバレー」というテンポの速い、ノリのいい曲だけを用意していたら『イマジン』のピアノの旋律が会場を沈静することもなかっただろう。